絶えず変化し続けるコンピュータの世界で、アラン・チューリング(Alan Mathison Turing)の業績は北極星に似ている。全てが移り変わりゆくように見えても、チューリングの示したコンピュータの原理はいつまでも不変だからだ。

 それはチューリングが1936年に発表した「万能機械」というアイデアに遡る。万能機械は「チューリング機械」と呼ばれる、このうえなくシンプルな想像上の計算機の一種であるが、他のあらゆるチューリング機械の動作を模倣できる。これこそが、現在のデジタルコンピュータの原型である。チューリングは万能機械を実用化するべく、第二次世界大戦後すぐに「自動計算エンジンACE」と呼ばれる、本物のコンピュータの製作に乗り出したのだった。

 2012年はチューリングの生誕100年だったことから、チューリングの業績を振り返るイベントやシンポジウムが世界各地で開かれた。日本のコンピュータサイエンス研究の第一人者である筑波大学の井田哲雄名誉教授に、チューリングの業績と人生を分かりやすく解説してもらった。

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