iPhone 5の発売、ソフトバンクによる米スプリント、イー・アクセス買収と、話題に事欠かなかった2012年の通信業界。では2013年の通信業界にはどのようなトレンドが訪れるのか。そこで、情報通信総合研究所の4人の研究員と共に2012年の通信業界を振り返り、2013年を予測する座談会を実施した。

(司会、構成は堀越 功=日経コミュニケーション

今年の通信業界を占う新春座談会

まずは2012年の通信業界でインパクトのあったニュースをそれぞれ3つあげてほしい。

岸田:年末に公開したITproの記事「私が選んだ2012年の十大ニュース」でも触れたが、1位が「ソフトバンクが米スプリントを買収へ」、2位が「iPhone 5発売を機にKDDIとソフトバンクがLTEを開始、テザリングも解禁」、3位が「ソフトバンクがイー・アクセスを買収へ」だ。理由は2012年は米アップルにみなが振り回された1年と言えるからだ。

写真●情報通信総合研究所 主任研究員 岸田重行氏<br>国内外の携帯電話市場に関して、サービス動向から企業戦略まで幅広く調査研究を行っている。
写真●情報通信総合研究所 主任研究員 岸田重行氏
国内外の携帯電話市場に関して、サービス動向から企業戦略まで幅広く調査研究を行っている。
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 iPhone 5がLTEに対応したことで、これまで各地域や事業者でバラバラだった通信方式の違いを克服できるようになった。1位のソフトバンクのスプリント買収は、これによってスケールメリットが見込めるようになったからこそ実現したと言える。

 2位のKDDIとソフトバンクのLTE開始も、特にKDDIはiPhone 5の登場に合わせてLTEの展開を前倒しし、当初は予定していなかった2GHz帯でのLTEの展開を慌てて準備した。

 3位のイー・アクセスもiPhone 5が同社の持つ1.7GHz帯に対応したからこそ、買収の動きになったと言える。

 あともう一つ付け加えると、2012年11月の「ドコモ、純減」(関連記事)のインパクトも大きかった。これもiPhone 5の影響と捉えられる。

 はっきり言ってしまえば、多くの人がアップルに迷惑をしているように見える。通信事業者や規制当局を含めて主導権を握れなくなっている状況だ。

中村:私は「米AT&Tなど通信事業者によるAPI開放の取り組み」(情報通信総合研究所の記事)、「米マイクロソフトの新戦略」、そしてやはり「ソフトバンクによる米スプリントの買収」を挙げたい。

 日本ではあまり目立っていないが、通信事業者によるAPI(Application Programming Interface)開放の取り組みは、米AT&Tやスペインのテレフォニカなど海外の通信事業者が積極的に進め始めている。これまで通信事業者は、ユーザーにいかに使ってもらえるのかという視点で自社のサービス開発に力を入れてきた。それに対し海外事業者が進めるAPIの開放は、いままで自社に閉ざされていたネットワークの機能をいかに開発者に使ってもらえるのかという視点で進められている。