最近、「第三極」ということばをよく聞くが、いろいろな期待を含んだ言葉のようだ。

 第1には、自民党・民主党に次ぐ第3番目に大きな(多数の議席を獲得する)勢力になってほしいという意味。第2には自民党、民主党に代わって政権を担う3つめの新たな勢力(登場する順序が3番目)になってほしいという意味。第3には自民党でも民主党でもない、第3の選択肢、英語でいうところのオルターナティブに登場してほしいという意味。

 そして第4には議席数が過半数割れした与党と協議して政権に影響力を行使する勢力、いわゆるキャスティングボートを握る勢力になってほしいという意味がある。第5には「二大政党制はだめだ。大連立を組んで勝手に談合したり、衆参で多数派が異なる“ねじれ”によって国会が動かない。だから多党が必要だが、小党の乱立は困る。3大勢力が拮抗するのがいい」という期待がある。この場合、その裏には自民と民主の2党への決別の気持ちと、二大政党制への決別(早すぎる気もするが・・・)の気持ちが混じった複雑な心理があるのだろう。

 さらに第6には、いよいよ政界再編の切り札となる政党が出てきてほしい、それが第三極だという考え方である。これは「みんなの党」が出てきた時の気分に近い。「新党結成を核に自民も民主もばらばらになればいい、全部ガラガラポンだ、その化学反応の触媒が第三極だ」という考え方である。さらにこれが具体化すると、第7の意味としては、「みんなの党」に日本維新の会などの“斬新な”勢力がくっついてほしいという期待がある。

 いずれにしてもメディアがこの言葉を使う背景には、「自民党もだめ」「民主党もだめ」、だから「誰か(あるいは新しい政党)に出てきてほしい」という国民の期待感があるように思える。それに合わせて石原慎太郎氏や橋下徹氏、さらに「みんなの党」や「たちあがれ日本」なども交えた連携の可能性が云々される。

「第三の××」の運命は・・・

 「第三のなんとか」というのは、これまでにもしばしば使われてきた命名法だ。有名なのは「第3次産業」「第3世界」「第3セクター」である。いずれも第1と第2があって完成したところに新興勢力が出てきて、命名に困って出てきた用語といえよう。

 経済が発展すると、第1次産業の農林水産業が減って工業に移ると解説していたところに、雑多で得体のしれないサービス業が伸びてきた。それでとりあえず「その他サービス業」を第3次産業と命名した。

 第1世界は欧米先進国、第2世界は東欧ソ連だ。第1と第2は西側・東側で冷戦の構図にあった。そこに1960年代になってアジアやアフリカの植民地が独立してたくさんの国が出来た。第1世界と第2世界は、これらの国々に対して国連の票争いや軍事基地を求めての援助合戦を繰り広げた。そして「その他新興国」が第3世界と命名された。

 第3セクターも「その他」の意味の第3だ。第1、第2は官と民、両方が出資したら第3セクターである。以上の“第3たち”のその後の運命は多種多様である。第3次産業は今や、数字の上では第1位に位置づけられる大きな存在になった。第3世界はBRICsなどの勝ち組のいわゆる新興国とその他に分裂し、今や死語となりつつある。第3セクターについても、解散や破綻などろくなニュースを聞かず、だんだん使われなくなっている。

 さて、「第三極」はどうなるのか。誰にもわからないが、以上7つの意味を吟味した上でその動向を見極めたいものだ。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。