「大阪維新の会」の国政進出をめぐって様々な報道がされている。筆者は2011年5~12月に大阪維新の会の政策特別顧問を務め、また現在は衆院選の候補者の選定委員を務める。今回は大阪維新と国政改革の関係について私見を述べたい。

なぜ大阪の再生のために国政改革が必要なのか?

 大阪維新の目的は大阪の町の活性化である。都構想は手段でしかなく、あくまで大阪の町の中の自治制度の見直し、そして自治体の資金の使途の見直しでしかない。いうまでもなくそれだけでは大阪は再生しない。現実には様々な政策の合わせ技が必要だが、特に重要なのは医療、福祉、教育などのサービス分野への国の規制の緩和である。それによって都市経済の中心を担うサービス産業の生産性を上げる必要がある。

 また、野放図で非効率な中央集権型の財政支出の仕組みを“地産地消型”、つまりきめ細かな現地密着型に変えていく。ちなみに現在、大阪市内では国税と府市の地方税が合わせて約4兆円も上がる。今はこのうち3割程度しか市内に還元されていない。大阪の税金の一部が税収の少ない地域に回るのはやぶさかではない。だが中央集権の行政体制の非効率で消える部分もあるとしたら、その是正は重要だろう。

 大阪の再生には「中央集権体制」と「過剰規制」の打破が必要である。なぜなら大阪には東京のような首都機能に由来する特権や既得権益がない。天然資源もなく、江戸時代から自由な市場取引と人間の才覚で成り立ってきた。だから規制緩和や自主独立型の自治制度ができると元気になる。このため大阪維新では国の制度の抜本改革に挑戦する必要がある。

One for all、All for one

 上に述べたとおり“大阪の改革だけ”を目指しても、今の国の制度と統治機構を大きく変える必要がある。大阪維新の会は地域政党だが、おのずと国の制度への疑問に向かう。だから大阪の改革には国の制度も変える必要があると考えてきた。

 しかし国の制度の改革を必要とするのは大阪だけでない。事情は各地で異なるが、多くは同じ構造にある。大阪が先駆けとなって中央集権体制の打破とがんじがらめの規制のくびきが断てれば、各地で自立に向けた改革が始まるだろう。

 筆者は、「大阪がよくなれば日本もよくなる」、そして「日本がよくなれば大阪もよくなる」と確信する。One for all、All for one――。「一人のために良いことは全体の利益ともなる、全体の利益にもなることは一人のためにもなる」というラグビーの言葉があるがこのとおりだ。大阪のために必死で作戦展開し、そのことが結果的に全国各地の改革と自立を促すことになればよい。いや、そうやって全国各地と連携しないと大阪も変われないだろう。

日本を変えるのか、地域を変えるのか?

 だがここで注意すべきは、いきなり日本は「上から」あるいは「丸ごと」変わらないという現実を直視する必要がある。わが国は中央集権の統治機構を変えない限り、誰が政権を握っても大した政策は実行できない。ましてや財政再建は絶対にできない。

 最も重要なことは、日本国政府を地域分割し(外交、防衛、通貨は除く)、制御可能なサイズにしたうえで、中身を変えていくことである。そのためには道州制の導入とそこへの内政の移譲が必須だろう。これはあたかも国鉄の分割民営化と同じ理屈である。国鉄は1964年に赤字に転じて以来、何度も経営再建計画を立てたが全て失敗した。ついに87年に地域分割したうえで民営化されやっと再生した。今の日本国も国鉄末期と同じ状態にある。道州制によって地域分割し、それでやっと抜本改革ができるだろう。

 大阪維新の会は、都構想を実現するために大阪市役所を解体することを訴え、2011年の“大阪ダブル選挙”で勝利を収めた。橋下氏は大阪市役所、そして大阪市長というポストをなくすために市長になった。同様に大阪維新の会は、今までの中央集権の日本国政府を解体し、地方主権に転換するために国政に参画する。

 だからマスコミ報道に見られる「維新の会が大阪から“国政を目指す”」とか“国政に上がる”といった言い方は間違いだ。地方主権を実現するために国政を“獲りに行く”と言ったほうが正しいのかもしれない。

国政以前にやることがあるはず?

 ところで識者にも、また一般の府民・市民の間でも、「維新の会は国政進出に浮き足立たずに専ら大阪の改革に専念せよ」という意見がある。確かにこれは一理ある。よその地域からすると、自分の地域の再生や財政再建すらまだできていない大阪の地域政党が急に「全国を変える」と言い出してもなかなか信用できないだろう。「まずは現行制度の下で地域の自立と財政再建に取り組む」というのは一つの見識だろう。

 だが、今の「決められない民主主義」を前提とした場合はどうしても国政進出が必要となる。第1には大阪都構想を実現するための各種法改正の必要性である。様々な努力のかいあって、大阪市役所の廃止のための手続き法が成立した(「大都市地域における特別区の設置に関する法律」)。しかし、都構想の実現にはさらに既存の約200もの法改正が必要だ。

 例えば現行の地方独立行政法人制度は、独法同士の合併を想定していないので、法改正をしなければ研究施設や公立大学などの府市の既存の独立行政法人の合併ができない。維新の会は2015年4月までの都構想の実現を目指す。こうなると法改正については政権与党に依願するほかないが、不安定な政局下で確実に実現するためには国会に議席を得たほうがよい。

 第2には中央省庁の協議である。現在、大阪市役所が得ている国からの補助金などを府庁と各特別区に円滑に引き継ぐ作業がある。国との協議を控え、国政への影響力があるに越したことはない。

 以上のような理由から大阪維新の目的を完遂するためには国政進出が必要だ。またそれは全国各地域の自立改革の先駆けとなるはずだ。まずは大阪が出て行って中央集権の岩盤に風穴を開ける。その後、各地も動き出すと岩盤にさらに大きな穴が開く。閾(いき)値を超えるとベルリンの壁の崩壊のように、既成の制度が音を立てて激しく変わり始めるだろう。

 大阪が変われば日本は変わる。そして同時に日本が変わらなければ大阪も結局、変われない。日本維新の会と大阪維新の会は互いに対等の関係を結びつつ、手を携えて大阪を、各地を、そして結果的に各地の集合体としての日本国を変えていくだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一
慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問、新潟市都市政策研究所長も務める。専門は経営改革、地域経営。2012年9月に『公共経営の再構築 ~大阪から日本を変える』を発刊。ほかに『自治体改革の突破口』、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』、『行政の解体と再生』、『大阪維新―橋下改革が日本を変える』など編著書多数。