ITpro経営カテゴリーの2012年ランキングは、業界人の多くを驚かせた事件報道が多くを占めるものの、中にはIT業界の“世相”を表している話題も見受けられ、なかなか興味深いものがある。
1位となった「【ニュース】成功しなかったアップル製品たち:ギャラリー」は、記事冒頭で「アップルが出すものすべてが成功が約束されているかのように見える」と持ち上げつつも、過去の失敗製品群を列挙した異色記事。ただしニュートン(1993年発売)やピピンアットマーク(96年発売)をまだしっかり記憶している記者には、上記フレーズは今ひとつピンとこなかったことはこの場で力説しておきたい。
とはいえ、このような記事の意義は、イノベーティブな挑戦者には多くの失敗がつきものだ、というついつい忘れがちな当たり前のことを思い起こさせてくれることにあるのではないだろうか。米ワイアードはつい先日、2012年、がっかりなITニュース12選で、真っ先に「iOS 6の地図アプリ」を挙げていたが、いずれこれも一時的な大失敗であったと笑って振り返る話題となってほしいものだ。
2位となった【田中克己の針路IT】NECのリストラはいつまで続くのかは、深い論点を提示している記事だ。NECの最大の経営課題が海外市場攻略にあることは、記者の知る限り、2008年秋のリーマンショック発生前から、既に複数の識者によって指摘されていた。しかしその反撃を可能ならしめるのは、営業体制の強化なのか、ハードウエア製品の強化なのか、クラウドなどサービス事業の強化なのかが、議論の分かれるところである。この記事はハード製品力強化という原点回帰こそがNECに必要なのだ、と力強く主張している。
7位の【記者の眼】富士通がハードウエアを捨てない理由もまた、ハードウエア技術こそが、好条件の提携や海外展開、新規ビジネスを生む力になるとの論を紹介した内容。読者には賛否両論あるかもしれないが、ハードウエア技術にもまだ進歩が望まれている領域はあるだろう。NECや富士通の意地がどう2013年に展開されていくのか、楽しみにしたい。
3位となった【進化・順化するリーン・スタートアップ】[インタビュー]方法論至上主義に警鐘、急成長「LINE」を生んだ企画プロセスは、新事業や新サービスを開発する際のリーダーの役割などをNHN Japan幹部に聞いた記事。新しいものを生み出す際のリーダーの意思決定の苦しみを生々しく聞き出したことが、読者の関心をそそったのだろう。
4位以下も、何らかの失敗に絡めて書かれた記事が目につく。スルガ銀-IBM裁判、ミログの解散、特許庁のシステム刷新中止、年金システム開発停滞の事例などだ。特にミログの解散事件は、ビッグデータ分野の一方的な盛り上がりに、ある意味で水を差した感があった。とはいうものの、スマートフォンユーザーからのプライバシー情報取得に歯止めをかける何らかのコンセンサスまたは業界ルール、規制などが必要になってきたことは明らかで、この辺りは2013年に持ち越された大きな課題の1つといえるだろう。
12位の【中国ビジネス事情 from ChiBiz Inside】絶対に言ってはいけないこのセリフも現場レベルでの失敗談に基づいた内容であり、今後中国ビジネスに関わる人なら改めて頭に入れておきたい内容。既にアジア展開の話題はミャンマーなど中国以外の国へと広がりつつあるだけに、こうした異文化コミュニケーションの失敗談は今後も注目を集めるだろう。
このほか目についたところでは、2007年の記事にもかかわらず【事例】「反常識」経営でシェア80% ホウ・レン・ソウ禁止で自律促すが意外によく読まれた。未来工業の創業者が書いた本が今年8月に発刊された影響によるものだろうか。
新春にふさわしい景気のいい記事を最後に強調しておくと、【ニュース】NIFTY-Serve大同窓会が開催、「秀丸シリーズはピーク時年1億円超えた」は衝撃的だった。同じような成功例などそうそう生み出せるものではないとは思うが、この冬、個人でソフト開発をしている人は、再度読み直すことでおのずと気合いが入るのではないだろうか。