PMOとは事務局でもなく管理屋でもない。米国においてもまだPMO=管理屋というイメージが強く、本来の価値を発揮しきれていない。PMOとはマネジメントを改善していく存在である以上、理屈通りに事が運ばないことに対しても、果敢に挑戦していかなくてはならない。そのためには、人間に対する深い理解と、PMO自身の人間力の向上が必要になる。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役社長


 2007年5月に本連載の第1回『事務局にあらず、庶務係にあらず』を公開してから足かけ6年となりました。その間、米国でもPMOの設置が増え、Fortune 500や政府系機関では、2010年時点で84%にまでPMOの導入が進んだという調査結果も出ています。日本においても、システムインテグレーターのみならず、他の事業会社においても、様々な業種業態でPMOの利用・設置が進んでいます。そのような中、読者の皆さんがこの「PMOを生かす」から何かしら得るものがあったとすれば、執筆を行う側として、この上ない喜びを感じます。

「やるべきこと」と「やってはいけないこと」

 「PMOを生かす」を連載することになった背景には、連載開始当時、プロジェクトマネジメントやPMOに関する「実務レベルのノウハウ」が世間一般にあまり見られなかったことがありました。もっと具体的な知見を広めることで、プロジェクトの成功に貢献できればと考えたのです。スタート当初は、まさか100回まで連載が続くとは夢にも思っていませんでした。

 この連載を始めるに当たり、「やるべきこと」と「やってはいけないこと」を決めていました。「やるべきこと」は、プロジェクトの現場をマネジメントしていくに当たって、すぐに使うことのできる知恵の提供です。

 「やってはいけないこと」とは、通り一遍の方法論や理論を引っ張り出し、その正当性を証明することです。理論的な内容は分かりやすく、理屈が成り立っているため、それを適用するだけでマネジメントが良くなるのであれば、これほど“おいしい話”はありません。しかしながら、読者のみなさんも十分ご理解されているように、プロジェクトという「理屈通りに行かない世界」において、「どのように組織の成果を発揮するか」が問題であり、それを解決する手段としてのマネジメントを具体的に示す必要があると私は考えました。

 企業におけるマネジメントも、もちろん同様に考える必要があります。業績の悪化や先行きの見通せない環境の中、数千人単位のリストラが当たり前のように行われています。企業が生き残りをかけて再生の道を選択したという意味では、致し方ないと思います。経営者の方々も苦渋の決断をせざるを得なかったのでしょう。ただ、財務諸表上の数字に表れた結果で先々の成果が期待できるとは思えません。そのようなリストラにより組織文化が崩れ、培ってきたマネジメント力が薄れるからです。

 一方、円高を追い風に日本企業の海外での企業買収も盛んです。買収効果を引き上げるためにも、リストラと同じように「組織に強いマネジメント力」を浸透させる必要があります。経営学者のピーター・ドラッカー氏は「組織をして成果を上げさせるための道具、機能、機関がマネジメントである」と述べていますが、まさにこのような“真のマネジメント”がこれまで以上に必要となってきているのです。