グローバルプロジェクトでは、海外メンバーの価値観との違いによりストレスをためてしまうことがしばしばあり、ほうっておくと多様で深刻なリスクに直面することがある。プロジェクトの初期フェーズで、グローバルPMOがステークホルダー管理プロセスを通じた「巻き込み」と定期的なコミュニケーションの場を用意し、海外メンバーとリスクを共有しながら「一緒に」対処できる枠組みを作っていくことが肝と言える。

今仁 武臣
マネジメントソリューションズ PMP


 グローバルプロジェクトでは、国内プロジェクトではあまりみられない様々な文化や価値観の違いに遭遇します。例えば、新興国メンバーのプロジェクトマネジメントに関する理解不足やITリテラシーの相違により、以下のような場面が考えられます。

グローバルPMO:Can you update the status of the test?(テストの実施状況をアップデートしてもらえますか?)

海外拠点のメンバー:It's OK, OK. No problem.(OK、OK、問題ありませんよ)

 これでは、正確な進捗がわかりません。海外拠点への新業務・システム展開でコロケーションができない場合は、なおさら心配になります。

 言葉や単語の理解が違う、いわゆる語彙の違いに基づくリスクもあります。

海外拠点のメンバー:What do you mean by“Process”? “Manufacturing process”?(「プロセス」とはどのような意味ですか。「製造過程」のことですか?)

 日本側で当たり前に使われる言葉の意味が海外でもそのまま通用するとは限りません。放置していると、丁寧に説明したと思っていた要求書や仕様書の内容の誤解が後工程まで解消されず、深刻な事態となります。例えば、ユーザー受け入れテスト(UAT)でそれらが判明した場合、大きな手戻り作業につながることがあります。

日本とビジネス状況が違うリスク

グローバルPMO:As described in our master plan, the system-down for the go-live will be scheduled in the beginning of November.(マスタープランにある通り、本稼働に伴うシステムダウンは11月初旬を予定しています)

海外拠点のマネジャー:Why do we need the system migration and shut down before Christmas time? We need an approval from the CEO.(なぜクリスマス時期の前にシャットダウンしてシステム移行をする必要があるのですか? それにはCEOの承認が必要です)

 日本と違い、クリスマス商戦が数カ月前始まる地域があり、その期間の業務上の変更は経営的にNGの場合があります。全世界を対象としたグローバルプロジェクトでは、例えば中国の春節も考慮する必要があるかもしれません。そのような日本にはない商習慣とプロジェクトの重要マイルストーンとの関連を見逃すと、プロジェクトの後半にスケジュール変更が発生し、全世界の拠点の業務、さらには商品売り上げなどの経営指標に影響を及ぼす場合があります。

 仕事の価値観や雇用状況など、文化の違いがプロジェクトに大きな影響を与えることがあります。

グローバルPMO:I would like to talk with the PMO person in your area.(そちらにいるPMO担当者と話をしたいのですが)

海外拠点のマネジャー:Oh, he already left this company.(いやぁ、彼はもう会社を辞めてしまいました)

 海外では人の異動や入退社が激しい地域があり、せっかくの情報共有が台無しになってしまいます。