「昨年は、市場平均の2倍の速度で売上高が拡大した。今年も5%程度は売り上げを伸ばせるはずだ」。確信に満ちた表情で語るのは富士通オーストラリア(FAL)のマイク・フォスターCEO(最高経営責任者、写真)。同社は富士通が「真のグローバル化」(山本正已社長)を実現するうえで、お手本となる存在だ。

写真●富士通オーストラリアのマイク・フォスターCEO と、同社が2011年に稼働させたデータセンター(右下)
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 FALの2011年の売上高はおよそ12億豪ドル(約1000億円)。富士通の海外売上高に占める割合は1割以下にとどまるが、成長率は群を抜く。2003年当時の売上高は約4億豪ドルだったが、10年弱で3倍に売上高を伸ばし、豪州ではヒューレット・パッカード(HP)、IBMに続く第3位のIT企業に成長した。さらに、富士通の海外事業はほぼ収支トントンだが、FALは営業利益率5%超を稼ぐ優良子会社でもある。

豪州の成功に二つの理由

 FALが躍進した理由は二つある。まずはM&Aを通じて、事業ポートフォリオを整備し、さらに規模の拡大も実現したことだ。

 FALはもともと、富士通製メインフレームの販売会社として40年前に産声を上げた。しかし、2000年代初頭のITバブル崩壊によりハード販売が急減速。立て直しのために就任したのが、FALの前CEO、ロッド・ボードレー氏だった。今は富士通本社の執行役員常務として、海外ビジネスを統括する。

 ボードレー常務は2003年にFALのCEOに就任すると、現地のITコンサル企業などを相次ぎ買収。ハード一本足から、インフラサービスやアプリ開発まで手掛ける総合IT企業へ、FALを変貌させた。さらに2009年に地元のITサービス企業「KAZ」を買収し、売り上げ規模を引き上げた。

 フォスターCEOはこう話す。「FALは豪州の地方政府には強かったが、KAZを買収することで連邦政府ともビジネスできるようになった。事業規模が大きくなったことで、100億円規模の大型契約も取れるようになった」。HPやIBMを向こうに回し、豪州で富士通がビジネスを拡大するには、M&Aは不可欠だったという。

 しかも、従業員の退職や顧客離れを招かずに、KAZの事業基盤を取り込むことに成功した。「フラットな経営組織を保ち、意思決定を迅速に進める社風が寄与している」。そう語るフォスターCEO自身もKAZ出身者だ。

 もう一つの理由は、データセンター(DC)に積極投資したこと。「FALは2億豪ドルを投じてDCを整備し、信頼を勝ち得た。豪州の顧客はIT企業の投資姿勢をよく見ており、他のIT企業は口約束だけだったからだ」とフォスターCEOは明かす。

 豪州では銀行がDCを利用する際、本店所在地とは別の電力系統を利用することを、規制当局が求めている。FALは「Tier3」と呼ぶ、金融機関が求める信頼性基準に準拠したDCを豪州全土に6カ所開設。顧客の開拓に成功した。

 投資手法にも工夫を凝らす。FALは昨年、シドニー郊外で最新のDCを稼働させたが、決め手はある大手の金融機関が利用を確約したことだった。実際に、3分の2のサーバースペースをその金融機関が占有している。事前に利用を確約してもらうことでDCの収益性を担保し、契約したら即座に資金を投じて稼働させ、顧客の信頼を勝ち得る。これがFALの成長の方程式になった。

 他にも、豪カンタス航空や地元の水道公社などとアウトソーシング契約を締結。フォスターCEOは「企業向けのクラウドでは、豪州市場で首位だ」と豪語する。

グローバル化なしに
国内市場は守れない
ロッド・ボードレー 氏
富士通執行役員常務

 私の使命は、富士通をさらにグローバル化させること。さもないと、日本における現在の位置すら維持できないと考えている。

 海外の競合は、日本市場に成長のチャンスを見いだしている。日本企業がグローバル化を進める中で、海外のソフトやサービスを利用する機会が増えてきたからだ。富士通が先回りしてグローバル化を進めないと、海外では外資系のサービスを使うことになる。すると、国内でも外資系にシェアを奪われることになりかねない。

 ある顧客企業は日本国内ではIT投資の15%を富士通に振り向けてくれるが、海外では半分の8%程度に減ってしまう。ここにチャンスが眠っていると考える。

 そのためには、顧客ごと、あるいは国ごとにソリューションを作り分けるやり方を改め、全世界で標準化する意識を持つ必要がある。日本と海外のビジネスユニットをつなぎ、「One Fujitsu」を作ることも重要な使命だ。

 豪州では買収を通じて人材(タレント)とビジネス規模を手に入れ、今の地位を築けた。問題解決の手段として企業を買収するのではなく、優れたビジネスかどうかを見極められたからだと考えている。富士通が成長を加速するために、買収を有効に活用すべきだ。(談)