2012年7月30日。週明けの株式市場で、今の富士通を象徴する出来事があった。株価が前週末の終値と比べて45円(13.3%)安い292円に急落し、一時300円を割り込んだのだ。株式分割を考慮すると、1980年以来、実に32年ぶりの安値である。8月に入っても株価は低迷し、300円付近で一進一退を続けた(図1)。

図1●富士通の株価推移と歴代社長
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 引き金は、7月27日に発表した2012年4~6月期の連結決算。売上高が前年同期比2.9%減の9573億円、営業損益は250億円の赤字で前年同期から79億円悪化した。円高ユーロ安などの為替が主な原因とするが、国内に限定しても売上高は0.1%減少。震災影響があった1年前よりも、業績が悪化しているのが実情だ。富士通は2013年3月期通期の最終黒字予想を据え置いたが、市場に不安が広がり株価急落につながった。

売り上げ減少が続く

 株価の低迷はITを含む日本の電機業界全体の問題でもある。ただ株価の推移から、今の富士通が直面している課題が読み解ける。

 まずは売り上げ減に歯止めがかからないことだ。連結売上高は4期連続で減少し、ならうかのように株価が右肩下がりになっている。2012年3月期の連結売上高は前期比1.3%減の4兆4675億円で、リーマン・ショック前の2008年3月期(5兆3308億円)から4年間で16%も縮んだ(図2)。

図2●富士通の連結業績の推移と2012年3月期のセグメント別業績
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 富士通の山本正已社長は「リーマン・ショック後は環境が改善すると見ていたが、そうならなかった。顧客が新規投資に慎重で、売り上げに影響している」と語る。

 今後も競争環境は厳しさを増す。連結売上高の約半分を占める「サービス」セグメントでは、「クラウドの進展が収益基盤を蝕んでいる」とドイツ証券の菊池悟アナリストは指摘する。

 得意とする大型のSI(システムインテグレーション)案件が減少し、従来ならば狙わなかったような小口の案件を拾い集める必要が出てきた。2012年3月期には同セグメントで5.2%の営業利益率を稼いだが、これまでと同じビジネスを続けるだけでは、売り上げと利益を維持するのは難しい。

 ハード事業でも逆風が吹く。サーバーや通信機器からなる「システムプラットフォーム」は2012年3月期に営業利益率8.4%をたたき出した稼ぎ頭である。しかし欧州の景気悪化によるサーバー販売の低迷や、北米通信会社の投資抑制が響き、直近の四半期は営業赤字に転落してしまった。

 2012年1~3月期に出荷台数で国内首位(IDC Japan調べ)に立った携帯電話事業も、盤石とは言えない。携帯とPCなどで構成する「ユビキタスソリューション」セグメントは、4~6月期に20億円の営業赤字になった。加藤和彦取締役CFO(最高財務責任者)は、「7月に投入した(スマートフォンなど)新機種の効果により、7~9月期は大きな回復を見込んでいる」と自信を見せるが、情勢は不透明だ。