写真●情報通信総合研究所 主任研究員 岸田 重行氏
写真●情報通信総合研究所 主任研究員 岸田 重行氏

 サービス動向から企業戦略まで、国内外を問わず携帯電話市場の調査・研究に携わる情報通信総合研究所 主任研究員の岸田重行氏。同氏は、2012年最大のニュースとして「ソフトバンクが米スプリントを買収へ(10月)」を挙げた。

 岸田氏は、これに続く2位に「iPhone 5発売を機にKDDIとソフトバンクがLTEを開始、テザリングも解禁(9月)」、3位に「ソフトバンクがイー・アクセスを買収へ(10月)」を選んだ。

iPhone 5が通信事業者の企業価値をも左右する

 この三つに共通するキーワードが、米Appleの「iPhone」だ。岸田氏はこの三つのニュースについて、「携帯電話事業者がAppleに振り回されており、iPhone 5は事業者の企業価値をも大きく左右した」と指摘する。同氏が執筆した「ソフトバンクによるスプリント買収、押さえておきたい7つの観点」では、ソフトバンクのスプリント買収においても、iPhoneが少なからず影響を与えたことを説明している。

 グローバル端末であるiPhoneは、各国の通信事業者が採用する通信方式を複数採用する「マルチモード」端末である。前述の記事で岸田氏は、「今のiPhoneは、通信事業者の網の違いを克服してしまう端末なのである。通信事業者間の出資、買収という場面においても、iPhoneがその前提条件を変えたといえる」(抜粋)と述べる。

 スプリント買収に先立つソフトバンクによるイー・アクセスの買収に際しても、iPhoneは影響を与えている。イー・アクセス(携帯電話事業のブランドはイー・モバイル)が利用する周波数帯である1.7GHz帯は、最新の通信方式であるLTE(Long Term Evolution)サービスで用いられる国際標準バンドの一つ。iPhone 5も同周波数帯をサポートしている。

 ソフトバンクモバイルにとってテザリング(iPhoneの設定では「インターネット共有」)の解禁など、データトラフィックの増加要因に対応し続けるには、ネットワークの継続した強化が不可欠。イー・アクセスが利用する1.7GHz帯を併用できるようにすることで、安定したネットワーク運用が実現できると踏んだわけだ。

 そもそもソフトバンクモバイルとKDDIは、2012年9月21日のiPhone 5発売をターゲットに、LTEサービスを開始。両社はiPhone 5を通して、自社のLTEサービスの展開をアピールしている(関連記事1:「LTE展開はKDDIの2.4倍進んでいる」、ソフトバンクの孫社長、関連記事2:「auのiPhoneが本命」、田中社長がiPhone 5発売イベントで自信)。

 まさに2012年の通信業界は、「Appleに振り回される」状況だったと言えるだろう。

[1]ソフトバンクが米スプリントを買収へ(10月)
ソフトバンクによるスプリント買収、押さえておきたい7つの観点
[2]iPhone 5発売を機にKDDIとソフトバンクがLTEを開始、テザリングも解禁(9月)
KDDIが9月21日からLTEサービス「au 4G LTE」開始、2013年度中に150Mbpsも
[3]ソフトバンクがイー・アクセスを買収へ(10月)
ソフトバンクによるイーアク買収の舞台裏、iPhone 5の1.7GHz対応が契機
[4]KDDIが固定とセットでスマホ料金を割り引く「auスマートバリュー」を開始(3月)
「3M戦略はゲームチェンジャー、単なるセット割ではない」とKDDIが主張する理由
[5]スマートフォン向けの無料通話/メールアプリ「LINE」が大躍進(7月~11月)
NHN Japanが「LINE」の新戦略を発表、プラットフォーム化やKDDIとの提携など
[6]NTTドコモのネットワークで大規模通信障害(1月)
[続報]ドコモ通信障害の経緯を明かす、スマホの信号量は従来のiモード移動機の10倍
[7]11月の携帯契約数、ドコモが過去最悪の純減(12月)
「ドコモの純減」はiPhoneだけが理由なのか
[8]FacebookがNASDAQ市場に上場、しかしその後株価は低迷(5~9月)
FacebookのCEOが「株価下落には失望」と認める、米英メディア報道
[9]iOS 6搭載のApple製地図アプリがひどいと評判に(9月)
iOS 6搭載のApple製地図アプリに非難ごうごう
[10]TwitterのAPI利用ルール変更で開発に多大な影響(8月)
TwitterのAPI利用ルール変更に開発者が猛抗議---米英メディアの報道