元経営コンサルタントが、コンセプト作りによる仕事術を説いた本である。「コンセプト」と聞くと新規事業や商品開発をまとめるスキルに聞こえるが、著者は組織の立て直しや企業再建にもコンセプトが必要だと説く。その好例が、1990年代に米IBMを再建したルイス・ガースナー氏である。同氏は就任直後に「IBMはシステム構築から運用までを、顧客の側に立って引き受け、行動すべき」という社内の意見を採用し、IBMを一つの会社として存続させる決断をした。赤字事業の処理よりも先にコンセプトを固め、その後に細部を詰めたことが再建を成功に導いたのである。

 本書がコンセプトと呼ぶ概念は「自分が実現したいことの包括的イメージ」である。実現可能性よりもインパクトや面白さを重視した理想像のイメージを組織で共有し、その実現にまい進する手法をコンセプト・ドリブンと呼んでいる。例えば、トヨタ自動車のジャスト・イン・タイムは「在庫をなくす」という実現不可能に思えた目標を掲げ、到達した点でコンセプト・ドリブンの手法だという。

 コンセプト・ドリブンを成功に導くカギを握る「良いコンセプト作り」についてページを割き、考え方や方法を具体的に解説している。例えば、最初のステップであるコンセプト作りのアイデアは、オリジナリティーを重視して高いハードルを自らに課すのでなく、多様な情報源を活用することを説く。発想は既存のものの組み合わせで広げることができるとして、組み合わせの能力を鍛える方法を解説する。

 アイデア出しに続くステップとなる、持続性があるモデルの作り方、そして最後に周囲の人々を巻き込む方法も具体的なエピソードを交えて説いている。

 著者の主張は実に面白く、奇をてらったように見えて説得力がある。マネジャーが指導力を発揮して困難なプロジェクトをどう成し遂げるべきか、一つの方法論を明快に示している。読むだけで良い仕事ができそうな気になれる本だ。

評者 好川 哲人
神戸大学大学院工学研究科修了。技術士。同経営学研究科でMBAを取得。技術経営、プロジェクトマネジメントのコンサルティングを手掛ける。ブログ「ビジネス書の杜」主宰。
成功はすべてコンセプトから始まる

成功はすべてコンセプトから始まる
木谷 哲夫著
ダイヤモンド発行
1575円(税込)