刷新失敗や計画遅延が相次ぐ政府システム調達を、どう立て直すのか――。政府は2012年8月10日、各省庁の情報システムを統括する政府CIOに、リコーでCIOを務めたリコージャパン顧問の遠藤紘一氏を起用した。遠藤氏は各省庁のシステム刷新を指揮するほか、マイナンバー制度に伴うシステム調達を牽引する。遠藤氏は、リコーでのBPR経験をここで生かすべきだと覚悟を決め、改革に臨む。

1966年リコー入社。情報システム本部長、生産事業本部長を経て2004年専務取締役。サプライチェーン改革などを推進する。取締役専務執行役員CINO/CIO、副社長執行役員を経て10年リコージャパン会長。12年4月顧問。同年8月から現職。1944年2月生まれ。(写真:陶山 勉)

政府CIOに求められる役割は何でしょうか。

 一つは年間約5000億円に及ぶという政府システムのITコストを削減すること。もう一つは、国だけでなく地方自治体も含めた行政の業務プロセス改革(BPR)を進め、日本の社会経済を活性化させることです。

 政府CIOに就任する前の2012年3月、民間企業のCIO経験者などからなる「政府情報システム刷新有識者会議」の委員になりました。その会議に出席していた岡田克也副総理や、古川元久内閣府特命大臣が、政府CIOに期待することとして挙げていたのが、この二つのポイントです。

 これまで、ほぼ同様の目標を掲げて政府内にIT戦略本部などいくつかの組織が発足しましたが、十分な成果を上げることができませんでした。重要なのは、この二つの目標を達成するために具体的に何をするかです。

日本の政府システムの現状をどう見ていますか。

 有識者会議の中で政府システムを「棚卸し」した結果、細かいところまで見えてきました。

 組織が利用する情報システムは大きく二つに分類できます。

 一つは人事や給与計算、旅費精算といった組織の運営にどうしても必要なシステムです。私はこれを「生活のためのシステム」と呼んでいます。もう一つは、組織の目的に基づくシステムです。どんな組織にも必ず目的が存在するはずで、その目的を達成するために使うシステムです。

 前者の「生活のためのシステム」は、省庁ごとに用意する必要はなく、一つあれば十分です。にもかかわらず、今回の棚卸しでは、各省庁がそれぞれ構築している例が多く見られました。こうしたシステムを整理すればITコストを減らせると考えています。

 後者の「目的のためのシステム」には、組織内で完全に閉じたものがある一方、省庁間あるいは省庁と自治体との間で連携できそうなシステムも見つかりました。例えば、総務省と財務省、厚生労働省のシステムを組み合わせれば、国民一人ひとりの収入と健康保険の利用額のデータを連携させるなどして、税や社会保障の政策を実行しやすくなります。こうした仕組みを確立するには、BPRを伴うシステム刷新が必要です。

各省庁にシステム刷新やBPRの推進能力が欠けているとの指摘があります。

 その問題は、民間企業も同様に抱えていると思います。システムを設計してベンダーに開発を依頼したが、設計図に問題があり、完成したシステムが期待したように動かない。ベンダーからは「設計図の通り作りました。最初からその要件を書いてくれればよかったのに」と言われる。私も(リコー時代に)、悔しい思いをしたことが何度もあります。

 だから、設計図の書き方を必死で工夫しました。現場のユーザー部門の力を借りて、徹底して取り組みました。そうしてできた設計図には、現場の知恵が詰まっています。

 今の省庁に、現場の知恵が詰まった設計図があるか疑問です。ITコストの削減を目指して設計などのアウトソーシングを進めてきたため、システムを自ら設計する力がありません。