迅速かつ柔軟な開発を目指したアジャイル開発手法を採用する企業が増えている。この連載では、アジャイル開発を主導する「賢者」に開発の極意を聞く。今回と次回は、敏腕アジャイルコンサルタントのジェフ・パットン氏に話を聞いた。

 パットン氏は、プロダクトマネジメントとUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインに深い造詣を持ち、2007年にアジャイルアライアンスのゴードン・パスク賞を受賞した。同賞は、アジャイルプラクティスに貢献したコミュニティーのメンバーに贈られるものだ。

 メアリー・ポッペンディーク氏は、リーン開発の次のステップは「正しいものを作る」ことだと話していた(関連記事:「正しいもの」を作るのがリーンスタートアップ)。パットン氏は、まさに「正しいものを作る」スペシャリストだ。同氏にアジャイルプロジェクトの悩みをぶつけてみた。

「プロダクト指向の規律」が足りない

アジャイルに関わるようになったきっかけは何ですか。

ジェフ・パットン氏
ジェフ・パットン氏

 2000年にアジャイル開発手法の「エクストリームプログラミング(XP)」を導入している会社に採用されたのがきっかけです。

 コードを書き始めたのは20年前で、18年ほど前にコードを書くスタッフの管理を始めました。その後15年くらい前に、小売業向けにソフトウエアを開発する小さな会社のプロダクトマネジャーになりました。それから徐々に、チームの管理、プロダクト全体の管理など様々な仕事に携わるようになりました。

 開発者がペアになって「顧客(何を作るべきかを定義する立場の人)」と一緒に作業するXPは当時、目新しくて格好いい軽量プロセスとされていました。XPによる作業の進め方は、すぐに気に入りました。当時最も広く採用されていたアジャイルプロセスの一つであるだけでなく、それまで見たことのなかった「規律重視」の側面を持っていたからです。

 アジャイルコミュニティーの人たちは、何がうまくいくか、何がうまくいかないかをプロセスの観点からとことん考えていました。アジャイルには「直に会って話せ」「密に連携せよ」といった教えがありますが、それは単に「カジュアルにやれ」という意味ではありません。フォーマルな進め方ではうまくいかなかった経験から、そう言っているんです。

 2001年に「アジャイル」という言葉が生まれ、XPやスクラムといった多くのプロセスが「アジャイルプロセス」として知られるようになりました。私はたまたま早い段階から関わることができたのです。

 ただ、アジャイルから多くの言葉や規律重視のプロセスを学ぶ一方で、「アジャイルの世界にはプロダクト指向の規律が欠けているのではないか」とも考えていました。プロダクトとそのユーザーを理解するための体系的なアプローチが抜け落ちているのではないか、と思ったんです。

 そんな問題意識を持ちつつ、2000年以降は様々な役割をこなしてきました。現在は主にコンサルティングと教育に携わっています。アジャイル開発を中心にしたプロダクトマネジメントとUXデザインを主に教えています。「アジャイルを使って、価値あるプロダクトを作るために必要な全てのこと」とでも言えばいいでしょうか。