「The Four Steps to the Epiphany」(邦題:アントレプレナーの教科書)や「The Startup Owner's Manual」(同、スタートアップ・マニュアル)の著者であるスティーブ・ブランク氏(関連記事:ブランク氏ブログ集)を師と仰ぐ堤孝志氏と飯野将人氏は、日本で「顧客開発モデル」「リーン・ローンチパッド」の普及に務めている(写真1)。その両氏に、日本での普及活動を通じて得られた成果や課題、今後の方向性について聞いた。

(聞き手は菊池 隆裕=ITpro


先日、法政大学で行われた「リーン・ローンチパッド」のクラス(関連記事法政大学のページ)を拝聴させていただきました。これは、スティーブ・ブランク氏が米国で始めたクラス(関連記事:スタンフォード大学の2012年リーン・ローンチパッド・クラスの報告)の体験版という位置付けになっています。

写真1●スティーブ・ブランク氏(中央)を挟んで、左が堤孝志氏、右が飯野将人氏。両氏が運営するLearning Entrepreneur’s Labから。
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 リーン・ローンチパッドは、スティーブさんが唱える「顧客開発」を、実践を通じて学ぶことができる講座です。起業や新事業を始めるコツを教えるのはとても難しい中で、彼が独自に構築し、2011年からスタンフォード大学などで始めました。

 講座は、いわゆる座学ではなく実践的な内容です。まずビジネスの仮説を立てて、教室の外に出て潜在顧客にインタビューをし、そのフィードバックに基づきピボット(軌道修正)して仮説を立て直す。このサイクルを繰り返すことで、顧客が本当に解決したい問題を浮き彫りにして、商品を開発していくのです。

 私もこの講座を日本で開講したいと考え、「ノンプログラマーのためのプログラミング教室」をうたっているClub86で、受講生を対象に教えてみました。インタビューした受講生は「想定と全然違う」、「課題そのものがない」と気付きました。

 貴重な資金や時間を費やした後でこんな回答があったとしたら致命的ですが、初期段階であれば傷は浅い。こうした実践的な経験を通じて、リーン・ローンチパッドのアプローチを学んでいきます。

このクラスの運営ポイントはどんな点でしょうか。

 最大の課題は「外に出てインタビューする」ことです。私たちは「インタビューがすべて」と伝えていたのですが、過去に行った講座では、時間の制約などによってインタビューが思うようにできない人がいました。できたとしても、1人だけとか、適切な方に聞いていないなど、インタビューの難しさを実感しました。

 原因を整理してみると、一つは人と話すことに抵抗感がある人が意外と多いこと。これは多くの日本人が抱える課題かもしれません。もう一つは、現在の組織でそのような経験が一切なかったというもの。大企業でありがちですが、役割分担が明確になっており、社内の事情を外部の人に話す機会が禁じられていることが、彼らの経験を奪っているようでした。

 そこで、Club86の3回目の講座では、新しい仕組みを取り入れることにしました。リーグ戦のように、受講生同士が聞き手と受け手になって、仮想顧客とみなしたインタビューを繰り返すのです。これによって、教室の内部で最初のインタビューが実現できます。

 一方でインタビューの達人もいて、書店の店頭でお客さんをつかまえて新しいサービスの利用意向を聞き出していました。その方のアイデアは金言や格言をネット上で共有しようというもので、そうしたサービスに興味を持つ人は書店に集まるだろうという仮説のもと、書店に向かったのだそうです。インタビューの結果、共有するニーズは予想よりも少ないことが分かり、ため込むことに注力するようになりました。