国の競争力強化や国民の利便性向上につながる「強い政府システム部門」とはどんな形なのか。そのヒントが、2012年国連電子政府ランキングで前回の2010年に続き首位を獲得した韓国にある。

 韓国で2012年5月、「ソフトウエア産業振興法」の改正案が成立した。政府や自治体のシステム調達について、大手ITベンダーの入札機会を大幅に狭めることで中小ITベンダーの入札を促し、IT産業の裾野を広げる狙いだ。「サムスンSDSやLG CNSといった大手は、政府など公共系システムへの参入が禁止になる」。韓国のIT事情に詳しい、イーコーポレーションドットジェーピーの廉宗淳社長はこう説明する。

 韓国政府の判断は、かつて日本が「データ通信サービス憎し」とばかりに、大手ITベンダー外しを図った動きとは異なる。韓国政府が「大手ITベンダーの助力なしでも、政府システムを調達できるようになる」ことを目指し、十数年かけて磨いた発注力に裏付けられたものだ。

 韓国政府の発注力を象徴するのが、350人の要員を擁する韓国情報社会振興院(NIA)だ(図1)。「振興法の施行後も、EAや監査指針、調達指針などに基づき、これまで通りに粛々と調達を進めていく。何も問題はない」と、NIA電子政府プロジェクト部門のパク・セギュ部門長は自信をのぞかせる。

図1●韓国における電子政府推進体制
省庁や自治体に必要なIT人材を、専門IT組織が補完する
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 NIAには、ITに詳しい人材のほか、法学や行政学の専門家が在籍する。各省庁の政府システム調達を支援するためだ。法学の専門家が在籍するのは、EAや業務プロセス改革を前提にする場合、業務を規定した法律の改正が必要になるためだ。要員のほぼ全員が民間出身。「給与は大手企業の8割ほどだか、一般の公務員より高く設定している」(パク部門長)。

 省庁横断型のプロジェクトはNIAが統括する。システム開発前の業務プロセス改革が義務化してあり、NIAが業務プロセス改革や省庁間の調整を担う。

 NIAは調達の実務に加え、電子政府戦略の方向性を政府に助言するシンクタンクの役割を負う。これまでも、社会ニーズの変化に沿って、政府システムを大胆に改革する戦略を立案してきた。日本の戸籍制度を起源とする「戸主制」を2008年に廃止したのに伴う、個人の家族関係を示す「家族関係登録簿」システムの企画や、電子認証システムの普及に伴う2011年の印鑑登録システム廃止を側面支援した。