IT人材の不足、調達プロセスの未成熟といった事態に直面しながらも、現場の工夫で成果を挙げたプロジェクトがある。こうした成功の要因を検証すると、政府システム調達改革への糸口が見えてくる。ポイントは、省庁の「壁」を越えて臨むところにある。

 各省庁が共通して使う人事・給与システムは、一時は失敗寸前まで追い込まれながら、立て直したプロジェクトだ。2010年10月に人事院でシステムを先行導入したのを皮切りに、衆議院、宮内庁、国会図書館が導入。この6月には、総務省が移行した(図1)。

図1●各省庁の人事・給与システムの統合イメージ
“オール霞が関”でシステムの要件や移行計画をすりあわせたことが奏功
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 人事・給与システムの刷新プロジェクトは、各省庁で共通するシステムを集約する「府省共通システム」のモデルケースになるはずだった。だが2006年、完成したシステムをレビューした省庁から「これでは使い物にならない」との批判が殺到、プロジェクトは仕切り直しとなった。

 失敗の原因は前パートで触れたように、システム共通化という理想に対し、政府が必要なIT人材も、各省庁を巻き込むプロセスも用意しなかった点だ。当初の人事院の要員は、わずか7人だった。

各省庁から人員を集める

 人事院はプロジェクト立て直しのために二つの改善策を打ち出した。一つは、必要な人員を確保することだ。「職員5000人につき1人をプロジェクトに出してくれないか」。人事院の赤司淳也事務総局電子化推進室長は、各省庁と交渉を重ね、人事業務を知る職員のプロジェクト参加を要請した。

 どの省庁も人手不足が慢性化していたが、システムが稼働せずに困るのは省庁自身だ。粘り強い交渉の結果、最終的に各省庁から20人ほどの人員を確保でき、人事院の要員を加えた30人以上の体制が整った。ただし、正式な出向辞令は出せなかった。「電子行政推進法」のようなプロジェクトの根拠法が存在しないからだ。政治の不作為を現場が補う形となった。