2008年のリーマン・ショック以降、20カ国・地域(G20)の経済状況は好転せず、多くの企業が成長を求めて新興国への進出を加速させている。中でも注目を集める地域の一つがインドである。インドは、言わずと知れた人口世界第2位の大国。経済失速と政情不安に揺れる中国に代わる進出先として期待が大きい。特にタミル・ナドゥ州、ケララ州、カルナタカ州、アンドラプラデシュ州の「南インド4州」への進出がここ2~3年のトレンドだ。

 進出企業の多くは製造業。チェンナイのあるタミル・ナドゥ州には、外資系だけで四輪の完成車メーカーが5社もあり、二輪も2社が工場を立ち上げ中である。周辺の部品メーカーも含めると、おそらく数年のうちに世界最大の生産拠点となるのは確実だ。「アジアのデトロイト」とも言われる。

 これには地理的な要因が大きい。チェンナイはインドの中で最も東南アジアに近い場所に位置し、インド第2の港がある。巨大なインド国内市場向けのみならず、海外への輸出拠点としても最高の場所である。当社はインドに進出した日系企業の約7割と付き合いがあるが、各社が南インドの競争力の高さに着目し、投資機会をうかがっている。

優秀なエンジニアの宝庫

日系企業の進出が加速する南インド、豊富な「IT能力」の取り込みがカギ

 南インドはIT企業にとっても重要な意味を持つ。まず、チェンナイがインドの国際通信のゲートウエイとなっていることだ。地図を見れば分かるが、チェンナイはベンガル湾に面し、シンガポール方面へ海底ケーブルが延びている。インド国内から東南アジア、さらには日本や米国への通信はチェンナイ経由が多く、ほかの都市に比べて速度や遅延の面で有利に働く。

 次に、多くの優秀なエンジニアを集められることだ。南インドは工科系の大学がインドで最も多く、毎年数十万人の若いエンジニアがIT業界に入ってくる。優秀で人件費の安いITエンジニアを確保しやすく、IT/BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)企業の多くが南インドに本社や物流センターを構える。

 こうした点に着目し、既に多くの欧米企業が南インドに進出を図っている。南インドの「IT能力」を取り込み、高度かつ安価なソリューションを展開しようというわけだ。日系企業もオフショア開発やBPOなどの目的で進出を検討する動きが徐々に進んでおり、当社が相談を受ける機会も増えている。数多くの現地IT/BPO企業の中から最適なパートナーを見つけるのは容易ではないが、事業の早期展開と成長に貢献できると自負している。

 南インドの豊富なリソースをどう活用していくか。日系企業の命題である今後のグローバル化促進に向けた重要なポイントとなりそうだ。

大前 敬祥(おおまえ たかよし)
NTTコミュニケーションズインディア南インド支店長。2001年にNTTコミュニケーションズに入社し、国際部門で東アジア地域の事業を担当。2005年から上海に赴任し、中国市場の通信サービスの事業開発に従事。2008年夏から社内留学制度を利用し、香港科学技術大学ビジネススクール(HKUST)でMBAを取得。2010年7月から現職。