「新しい技術や開発プロセスを常に検証し取り込んでいく。その仕組みがないと、ビジネスの変化に即応したシステム開発は不可能だ」。協和発酵キリンの篠田敏幸 情報システム部長は断言する。

 同社は長年、社内の業務部門と共同でビジネスに役立つ社内システムを作る体制を整備してきた。現在もリーンスタートアップの実践を目指し、より「小さく、早く」システムを開発できる仕組みを整えつつある(図1)。

図1●協和発酵キリンが社内システムの開発・保守に取り入れているサイクル
新しい技術や手法を検証する専門チームを設置している
[画像のクリックで拡大表示]

 その推進役が情報システム部の技術検証チームである。同チームの役割は、最新のシステム開発手法に関する効果測定や検証。システム構築スピードを高めるのが狙いだ。

 チームメンバーは知識を習得するだけでなく、社内の小規模な開発案件や架空の開発案件を実際に進めながら導入効果を計測していくのがポイントだ。例えば、「書店チェーンの経営に必要なシステムを開発する」という架空プロジェクトを実践。ビジネス上の課題の洗い出しや業務分析から、簡単なプログラム作成までの一連の開発作業を通じて、開発手法の効果や問題点を検証していく。

 架空プロジェクトは、システム部員が自社標準の開発手法を学ぶために使っている事例と同じものを流用している。このため、既存の開発手法との導入効果を比較しやすいというメリットがある。

 技術検証チームのメンバーは数人。メンバーはチーム内で手法を検証するほか、実際のプロジェクトに参加して技術支援を担当する。さらに、情報システム部内で定期的にメンバーをローテーションすることで、新しい技術や手法を部内全体に定着させている。

外部の力を借りるのも手

 ここまで見てきた先行企業の多くは、システムを自社で内製している。だが、そうした企業しか実践できないわけではない。

 日本国内でリーンスタートアップの普及促進活動を進めている「Lean Startup Japan」代表の和波俊久氏は、「全てを内部で賄おうとする必要はない。外部の力を借りることも考えるべき」とアドバイスする。

 「MessageLeaf」というWebアプリケーションを通じた新規ビジネスを準備中のメディカル・インサイトはリーンスタートアップを実践するに当たり、ソニックガーデンの開発支援サービスを利用している(写真1)。ソニックガーデンが提供するのは、アジャイル型開発の月額定額制サービス。メディカル・インサイトの鈴木英介社長は、「新事業を立ち上げるまでに何度も軌道修正が必要。ソニックガーデンのサービスはこうした開発に向く」と話す。

写真1●メディカル・インサイトと開発会社ソニックガーデンによる仮説検証作業の様子
週1回のペースで顔を合わせ、サービスの改良点をその場で決めていく
[画像のクリックで拡大表示]