新たな製品やサービス、事業を素早く確実に開発する「リーンスタートアップ(Lean Startup)」と呼ぶ手法を採用する企業が相次いでいる。情報システム部門にとっても強力な武器になる。「ビジネスに直結したシステム」作りに役立つだけでなく、ビジネスモデル作りに貢献できるからだ。先行企業の取り組みを中心に実態を追う。

 「じゃらん.net」や「ホットペッパーグルメ」など人気Webサイトを運営するリクルートは2012年3月、新たなサイトを立ち上げた。「startupinjapan.com」である。

 このサイトを知る日本人は少ない。日本への留学を希望する中国人向けに日本語学校を紹介したり、日本での生活情報を提供したりする中国語のサイトであるからだ。無料で利用でき、日本語学校などがスポンサーとなる。

 サービスの登録利用者はまだ数十人にすぎない。だが、「当社にとって重要なプロジェクト」と、ネットビジネス推進室プロダクト開発グループの萬田大作氏は言い切る。「当社の必勝パターンが使えない分野でマネタイズの道筋を探る」(同)という特別な役目を担っているからだ。

社員2人が1カ月で開発

 新たなカテゴリーの情報誌やWebサイトを一気に立ち上げて定着させる。これがリクルートの得意技である。どんなプロモーションを打てば顧客がどう反応するかといったノウハウを蓄積・再利用して成功の確率を高めてきた。

 startupinjapan.comではこうしたノウハウが使えなかった。中国人の会員を募るので、広告ツールはGoogleやTwitter、Facebookではなく、中国のBaiduやWeiboである。主要なスポンサーである日本語学校もこれまでは縁遠い存在だった。何より、利用者を増やす有効打がよく分からない。

 リクルートが採った手段は「小さくてもいいから、早く試してみる」だった。社員2人が1カ月で必要最小限の機能を作り、サービスの提供を始めた。現在は1人で運営しつつ、改良を重ねている。

 新たな製品やサービスを小さく、早く立ち上げ、顧客の反応を見ながらこまめに軌道修正していく。創業107年のコクヨグループで文具事業を担当するコクヨS&Tも、このやり方を導入した1社だ。この手法で、紙のノートとスマートフォン用アプリを組み合わせた「CamiApp」を開発。「手書きのノートを手軽にデジタル化したい」というニーズに応えるヒット商品を生み出した。