製品やサービスのコモディティ化の進行により、企業が製品やサービスで明確な差別化をはかることが難しくなってきました。これにより、新たな条件での企業間競争が始まっています。

 一方、インターネットとモバイルの普及により、顧客はネットを通して無限の情報収集力を手に入れました。価格.comやTripAdvisorなどの情報共有サイトを中継点として情報を共有し合い、企業に対して高い期待を抱くようになりました。

 いま、グローバルビジネスにフォーカスしている企業は、参入する各国、各地域の顧客のニーズにどう応えるべきなのか模索しています。

 もちろん、これらのニーズは、それぞれの言語、文化、個人によって異なります。企業はグローバルな観点から世界中の顧客のニーズを考慮にいれ、顧客経験価値戦略(Customer Experience Strategy)を構築する必要に迫られています。今回は、グローバル カスタマーエクスペリエンス : グローバルな観点からの顧客経験価値について考えてみたいと思います。

顧客経験価値は本質的に地域によって異なる

 最近は、よくカスタマーエクスペリエンス「顧客経験価値」(CX:Customer Experience)という言葉が使われます。この「顧客経験価値」という言葉は、バーンド・H・シュミット(Bernd H. Schmitt)の著書などを通じて一般的に広まりました。

 一般的なCXの定義を要約すると「品質や機能といった商品・サービスそのものの価値ではなく、購入したり使用する過程の“経験”から得られる価値。商品の付加的魅力として差異化要因になる」(ITproより引用)ということになります。

 車の購入を例にとると、燃費や室内の広さといった機能や価格だけではなく、試乗したときの乗り心地、営業担当者の対応、まわりから「かっこいい」とか「社会的な地位があると思われる」かどうかなどの付加的魅力ということができると思います。

 価格や品質の競争が行きつくところまで行った成熟市場で、顧客経験価値は効力を発揮するといわれています。

 この顧客経験価値は、絶対的なものではありません。それは「企業とのやり取りに対する顧客の認識」であるということができます。

 「顧客の認識」を作り出すのは何でしょうか?

 それは言語、文化、マーケット、ブランドへの期待など多岐にわたります。企業は、対象とする顧客のニーズ、行動、考え、動機などを理解したうえで、顧客の求めているものを提供し、取引をより簡略化してやり取りを楽しんでもらう必要があります。

 日本のグローバル企業は今まで基本的に、北米、ヨーロッパ圏を中心にマーケットを開発してきました。しかし、今後、事業拡大を最も見込めるのはブラジル、ロシア、インド、中国といった新興マーケットです。こうしたまったく異なる言語、文化圏では、地域に適したエクスペリエンスを提供することがビジネスの大前提になるのです。

 今まで「地域に適したエクスペリエンスを提供する」ということは、同じ製品やサービスを販売するためのキャンペーンを各地域向けにカスタマイズして作ることを意味していました。しかしながら、現時点では、もっと顧客の立場に近づき、長期に渡る顧客との密接な関係維持を実現するために、差別化したローカライズソリューションを提供することが重要なのです。

 こうした地域に適合するためのローカライズソリューションは、これまではビジネスの運営コストとしてとらえられてきました。しかし現在では、重要な差別化要因なのです。