Kさんは初めて女性部下3人の上司に任命された。今や女性は職場の華として飾っておく存在ではない。戦力としていかに活用していくかが、マネジメント上の重要な課題である。そのことを十分認識して取り掛かったが、実際、係長として3人の部下を持つ身になって1カ月近くたつと、幾つも気になる点が目に付く。
A子さんは色白の美人だが、仕事が遅く、何をやらせても手間取ってイライラさせられる。B子さんはおとなしくて目立たない存在だが、仕事が重なって忙しくなると、パニック状態に陥る。C子さんは「頭がいい」「仕事ができる」ともっぱら評判だが、何かと文句や不満が多い。自己主張も一方的だ。
ある晩、Kさんは帰りに課長と一杯飲みながら3人の部下の話をした。「個性が異なる3人なんですが、まだ不慣れもあって、どんなアドバイスをしたらよいか悩んでいます」
「オレも女性の扱い方は下手だからね。なでしこジャパンの佐々木則夫監督にあやかりたいものだ」。それから課長とKさんは佐々木監督の話題で盛り上がった。Kさんの印象に残ったのは、「選手一人ひとりの持ち味を生かして強いチームを作る」という佐々木監督の言葉だ。
<自分の部下である3人の女性、一人ひとりの持ち味か>。つまり、3人のそれぞれが持っている良さ、強みとは何か。
KさんはA子さんをまず思い浮かべてみた。美形で色白だから、ちょっと人の目を引く。でも、仕事が遅い。
遅い理由は何だろう。第一は着手が遅い。性格がおっとりしているらしく、言われてすぐに取り掛かろうとしない。
第二は、動きにムダが多い。仕事を一つひとつ別々にやるため手間取るのだ。彼女が仕事の着手を早くして、同時処理できるようになれば、スピードの遅さは改善されるだろう。
せかせかしないのは良さである。B子さんのように仕事が押し寄せるとパニックになったりはしない。この良い点を生かしながら、仕事を速く処理できるよう、彼女を励ましながら指導することを、Kさんは心に決めた。
話し方研究所 会長