IPv4アドレスの在庫がすでに枯渇状態にあるのはみなさんご存知かと思います。これは、APNIC地域(アジア太平洋地域)だけではなく、RIPE地域(欧州地域)でも2012年9月14日に最後の/8の配布に入った(実質的な枯渇状態)とアナウンスがありました。

/8とはIPアドレスのネットワーク部が先頭から8ビット目までであることを示す。IPv4アドレスは32ビットなので、32-8=24ビットをホストに割り当てられる。このように/の後ろの数字が小さいほど割り当てられるIPアドレスの数が多く、大きなアドレスブロックとなる。

アドレスの移転で経路情報が増える

 まずはIPv4アドレス移転の背景について見てみましょう。先ほど、APNIC地域だけではなく、RIPE地域でも最後の/8の配布に入ったと述べました。これにより、既にAPNIC地域(JPNICを含む)のLIR(Local Internet Registry。JPNICの場合は「IPアドレス管理指定事業者」という)は、最後に/22の割り振りを受けてしまえば、それ以降はRIR/NIRからのアドレスの割り振りを受けられなくなります。

 新たなIPv4アドレスを獲得するには「移転」という方法しかありません。これは、使っていないIPv4アドレスを持っているLIRからアドレスを“譲ってもらう”ことです。譲ってもらうというと聞こえはよいかもしれませんが、このIPv4アドレス移転には様々な懸念点が指摘されています。

 その一つが、アドレスブロックを分割して移転させることによる「経路情報の増大」です。経路数が増えることで何が問題になるのかは、以前記事でも紹介しました。要は、ルーターの上限の経路数を超えた場合、経路を保持するメモリーの領域がなくなってしまうのです。これにより、上限を超えて新しく受けた経路は無視されたり、最悪な場合はルーターがリブート(再起動)し、BGPセッションを再接続したりすることになります。

 IPアドレスを移転する場合、経路数が増えるケースと増えないケースがあります。例えば、あるプロバイダーが/16のアドレスブロックをどこかに移転しようとします。このとき、/16のアドレスブロックをそのまま移転してしまえば、経路数は増えないと考えてよいでしょう。

 一方で、アドレスの移転を受ける側としてみれば、/16という大きなアドレスブロックが必要ではない場合もあります。このような場合、/16を/18というアドレスブロック4つに分割して移転することも可能です(図1)。仮に、このような分割移転を行った場合、異なるASから4つのアドレスブロックとして経路表に記載されます。つまり経路数が1つだったものが4つに増えるわけです。これが、IPアドレス移転による経路数増大の基本的なメカニズムです。

図1●アドレスを分割して移転する例<br>/16という大きなアドレスブロックを、/18に分割して他のプロバイダーへ移転する。これにより1つだった経路数が4つに増える
図1●アドレスを分割して移転する例
/16という大きなアドレスブロックを、/18に分割して他のプロバイダーへ移転する。これにより1つだった経路数が4つに増える
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BGPとはBorder Gateway Protocolの略。プロバイダーなどの大規模ネットワークのルーティングに使われるプロトコル。
ASとはAutonomous Systemの略で、「自律システム」などと訳される。共通のルーティングポリシーを持ち、共通の管理下で運用されているネットワーク群のこと。