スマートフォンやタブレット端末などモバイルデバイス市場で業界標準の座を射止めた英アームが2012年11月、初の64ビットプロセッサのコアを発表した。米グーグルなどベンダーの要望する高速化機能を搭載しており、モバイル端末でもプロセッサの64ビット化が加速しそうだ。

 投入するのは「Cortex-A50シリーズ」で、2014年にも搭載チップが登場する見通し。アームはプロセッサコアの設計に特化した企業であり、実際のチップは同社からライセンス供与を受けたベンダーが製造・販売するビジネスモデルだ()。

図●英アームの64ビットプロセッサを利用するとみられる企業
ライセンスを供与された製品が2014年ごろに登場する見通し
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 モバイルデバイス向けでは、韓国サムスン電子や米クアルコムなどが採用する見通し。米アップルもiPhoneのプロセッサにARMコアを採用しており、将来的に64ビット化する公算が高い。

 新たにJavaScriptなどの軽量言語を効率的に実行できる、「Tagged Pointer(タグ付きポインタ)」と呼ぶ機構を64ビットコアに盛り込んだ。軽量言語の実行環境ではデータの種類(型)に関する情報などをポインタの一部領域に格納する技法を使うが、これをプロセッサでハードウエア的に支援できる。アームによると32ビットコアに比べ、「JavaScriptなどの実行を5~10%高速化できるとみている」という。

 こうした仕組みは、Webアプリの実行を高速化したいブラウザーなどのベンダーの意向をくんだ結果だ。例えば、グーグルのWebブラウザー「Chrome」や、オープンソースソフトのサーバー向け非同期処理環境「Node.js」。これらに組み込んでいるJavaScriptの実行エンジン「V8」は、Tagged Pointerを利用している。

 もちろんアームはサーバー市場にも照準を定めており、先にサーバー向けの64ビットチップから製品化が進むもよう。32ビットに比べて最大搭載メモリー容量が約6万5000倍の256テラバイトまで拡大。このほか、ビッグデータなどの分散処理を多数のコアで効率的に実行できる。仮想化処理のハードウエア支援機構も備えた。

 アームが64ビット化を打ち出したことで、x86プロセッサを手掛けていた米AMDも採用を表明。米エヌビディアはこれまでモバイルデバイス向けのプロセッサでアームのコアを使っていたが、64ビット化でサーバー市場に本格参入する見通しだ。