UXと言えば、Webサイトやアプリ、スマートフォン、タブレット、またそれらの中で使われるアプリ、はたまたテレビやPC、ゲーム機といったもののユーザービリティやサービスの流れ、内容に至るまでかなり広範囲な議論があるわけだが、広告をUX視点で語るとどうなるだろうか。そもそも広告をUX視点で語ることに意義があるのかどうかという問題はあるのだが、何かのヒントになるかもしれないので考えてみよう。

広告のUXは生活者側と企業の両面に発生する

 広告はテレビCM、新聞広告、バナー広告、Webサイト、スマートフォンのアプリに出る広告、看板、などの様々な形態で生活者の目前に出現するわけだが、生活者側からすると、とある企業のとある商品やサービスの広告をすべて見ることは確率的に低く、どれか一部を見ることが確率的に高いと思われる。企業側も、予算と広告露出期間の都合上すべての媒体で手厚く広告を打ち続けるということは滅多にない。そこで周知の通り、その広告がターゲットとする人々が最も接する媒体に、最も共感やインパクトを与えて商品認知、購入あるいはブランド醸成に貢献すると予想される企画、施策を行う。つまりコミュニケーション・デザインを実施することになる。
 このコミュニケーション・デザインは企業側、そして広告会社が想定したターゲットである生活者に効率的と思われるコミュニケーションである。よって広告に接した生活者のUXが広告接触後に発生する。そしてその後に広告を実施した企業側が自ら実施した広告のUX(生活者のUXから得られるUX)を味わうことになる。

 つまり広告のUXとは生活者側に発生するものと、企業側に発生するものの両面があることになる。そして非常に細かい話になるが、広告コミュニケーションの中には直接生活者のデータが取れる部分(バナー広告やWebサイト内での行動履歴から商品購入に至るまでの各種データなど)と、間接的にデータを取る部分(アンケートなどによる意識調査など)があるので広告コミュニケーションを実施する前の計画段階からどの部分でどういったデータを取り、その数値目標設定をどう置くかは決めておくべきであろう。そのデータに関してもあくまで企業と広告会社側だけの目標設定ならないようターゲットである生活者側のUXに紐付けられる設計が必要となるだろう。

 つまり広告コミュニケーションの意義はUX的に言えば長期的にユーザーである生活者と何らかのコミュニケーション(オウンドメディアやSNSなど)を取り続け、その状態にプラスアルファで広告コミュニケーションを実施することだと言えるのではないだろうか。

ハレとケを繋ぐ

 以前にUXはハレとケのケであると述べたが、広告におけるUXでは、ハレとしての広告部分(テレビCMなどのマス広告表現)と、ケとして日常的に生活者とコミュニケーションを取るオウンドメディアやSNSといったUX部分とを意識して繋がるように設計することが重要だと思われる。生活者側は意識することなく広告やSNSなどと接して、自然に企業メッセージに触れ、その一貫したメッセージに気付くこともあれば、一部に接するだけの場合のどちらもあることになる。

 このように書くのは簡単だが、ハレとケを意識的に繋ぐ設計は担当者も部署も異なる仕事となり、その結果を継続的に分析するとなると余計に大変になるわけだ。