テクノロジーが開発される目的が万人の生活をより豊かに、便利に、そして楽しくするものだとすると、テクノロジーを結集して作られる各種UXの目的もまた同じである。だとすると、企業は提供する商品、サービスの独自性を出しつつもUXに関しては万人が使いやすく、便利で、分かり易く、美しいものでなければならない。

 テレビのリモコンがそれぞれのメーカーで大体同じ作りになっているのはそういうことであって、逆にあまりに斬新なリモコンを作るとしたら、それこそがその後のスタンダードになるくらい便利で、無駄が無く、機能的で、万人に使われるようになるものでなくてはならないのだ。

 私たちの生活に身近な家電について考えてみよう。家電のすべてを1つのメーカーで揃えている人はまずいないだろう。冷蔵庫、テレビ、洗濯機、PC、スマートフォン、電子レンジなどなど、あらゆる家電が家庭内に在るわけだが、それらの家電が互いに連携し始めるとしたらそのUXはどうなるのだろうか。

現在、テレビとブルーレイディスクはスマートフォンのアプリから連携させることができるものがある。それは家の中にあるリモコンから操作するだけでなく、外出先から番組予約ができるようになっている。メーカーは単品のテレビのような製品をどれだけハイスペックに製造してもコモディティ化して利益をあげられないことから、ブルーレイディスクなどの製品連携による付加価値で商品群を売る戦略がとれる。将来はその2つだけでなくあらゆる家電が繋がって付加価値が高まるだろう。

 冷蔵庫にスマートフォンのアプリをかざすと足りない食品を察知したアプリが、その食品を最も安く手に入れる最寄りスーパーのバーゲン情報や割引クーポンを自動的に獲得できるようになる。家庭内にある家電の総電気使用料をアプリでリアルタイムに把握しつつ、自動的に無駄な電気を控えたり、切ったりできるようになる。そんな将来の家電連携があるとしたら、それらのサービスを提供するのはメーカーなのか電力会社なのか、そして連携するためのアプリが各社から出されて、いちいちその沢山のアプリを立ち上げなければならないとしたらUX的には本末転倒な話になってしまう。

UXはユーザーのもの

 メーカーに閉じたUX、連携機能に留まるとUXの本質から外れた1メーカーの囲い込み戦略になってしまう。むしろUXを突き詰めて行くとオープン戦略へと向かって行く筈である。例えば1メーカーが自社商品、サービスを連携する機能を充実させることができたら、その技術、規格を他社メーカーと共有することはないのだろうか。また1社だけでなく複数社が共同で連携機能を開発し、共通規格を作ることはないのだろうか。しかしオープン戦略を取ると有利な企業と不利な企業が分かれる可能性もあって、その動きは起きないかもしれない。

 ただ確実に言えることは、UXはユーザーのもの。ゆえにUXはユーザーから企業へフィードバックされるべきもの。そして、ユーザーはユーザー同士で繋がってその商品、サービスの使い勝手を語り合い、より良い使い方などをSNSなどで交換し合う。企業もその声に耳を傾け、参考にする。UXは企業も生活者も巻き込んでソーシャル化する宿命があるのではないだろうか。

水川 毅(みずかわ たけし)
電通 第4CRP局プランニング・ディレクター
東京大学大学院学際情報学府卒。1990年電通入社以来コピーライター、CMプランナーを経て、1998年以降インタラクティブ領域のビジネスに従事。Webの制作ディレクターを経て2005年以降は新規事業開発に携わる。スマートフォンアプリの開発から、プラットフォーム開発、企業戦略まで業務範囲は広い。