UX(ユーザー体験)とは、Webサイトやアプリ、スマートフォン、あるいはテレビやゲーム機器などにおいて、ユーザーが使い易く便利で機能的なデザイン、機能を実装することで良好な経験を提供すること、と定義できる。

 つまりUXの中身は、デザインでありデザインからもたらされる機能(デザインと機能の背景にはテクノロジーも含まれている)であり、それを味わうユーザーの気持ち、記憶といった経験全般である。

 しかも現代は、そういったUXを重視しなければならないWebサイトや、アプリやスマートフォンなどのコンタクトポイントやデバイスが増加し、人々はそれらデバイスやコンタクトポイントを複数にまたがって生活している。言うなれば複数のUXを乗り継ぎながら、あるいは同時に使いながら生活している人々が増えているのである。

 それだけに、あらゆる商品やサービスのUXが重要視されてきている。UXの仕事に携わる人々も増えているのが現状ではあるが、UXの持つ本質は理解されていない。それはパーツパーツで存在し始めた新しいデバイス(スマートフォン、タブレットなど)と、既存デバイス(TV、PC、各種ゲーム機など)があり、それら個別のUXの話が各論で存在していることと、それら個別デバイスが連携する新しいマルチスクリーンUXの時代が到来しつつあるということが同時に起こっているからなのだ。

 この現状はとても当たり前すぎて気が付きにくいのだが、重要なポイントが潜んでいる。新しいデバイスの個別UX開発をすること自体、新しいことだが、それ自体を新しいと思って満足していたら既に遅い。その新しいことより更に新しいUX連携のコンセプトが既に現実となり、今後加速していくと思われるからだ。

 個別製品(ハード)の性能が各社の競争で限界まで高められ、コモディティ化し、値段が低下して企業の利益が減る。それを防ぐために複数のハードを連携させ、アプリ(ソフト)などのUXで付加価値のある新しいサービスを創ることなどが考えられる。その時に、企業が直面する大きな課題は、他社商品やサービスとの連携をどうしていくかという点である。自社の製品連携やサービスを徹底的に考えることで、その製品群やサービス連携の中でのUXを良いものにすることはできるだろうが、ユーザーが家電製品などを1社で揃えることは、よほどのファンかマニアでなければ考えられないからである。

 ただこの課題は杞憂に終わるかもしれない。テレビのリモコンはテレビとひも付いて各社が出しているが、どれも似たようなUXで誰もがすぐに使うことができる。それと同様にさまざまな家電の連携が各社やサードパーティーの出すアプリで連携できたりするようになれば1社の家電製品で揃えなくとも、スムーズなUXで各社にまたがった連携の恩恵を得られるようになるかもしれない。