2012年、UXの観点から興味深い企業の発表が相次いだ。ソニーの「4スクリーン戦略」、KDDIの「3M戦略」、マイクロソフトの「Windows 8」である。これらが意味するのは「企業は自らの企業戦略にUXを取り入れている」ということだ。つまりUXを考えることが企業戦略を考えることと同義になってきているのだ。これは到底サラッと受け流せることではない。とてつもなく大きな変化が企業に起き始めていると捉えなければならない。

 分かりやすく言えば、企業がUXを戦略として捉えること自体がイノベーションなのだ。前述の3企業は、すべて業態の異なる企業である。ソニーは基本的には製造業、KDDIはキャリア、マイクロソフトはIT。それら異なる業態の企業がUXを戦略に置いているのは、業態に関係なく視点を企業側戦略から生活者側戦略に180度切り替えたことを意味している。しかも、それらの企業はマルチスクリーンを前提としている点でも共通している。

ソニーの4スクリーン戦略

 ソニーの4スクリーン戦略は、テレビ画面をメインのスクリーンと捉え、ユーザーの手元にあるスマートフォン、タブレット、PCといった3つのスクリーンがテレビ画面をサポートする概念である。テレビ画面がメインなのは多くの家庭で、リビングに置かれていることに違いない。テレビ画面は受動的に眺めて見るもの。手元のスマートフォンやタブレット、あるいはPCで積極的に番組録画やいらなくなった番組削除などを行うという、スクリーンの自然な使い分けを想定している。

 4スクリーンはソニーの自社製品を想定しているのでプロダクトアウトな思想と思われる可能性があるが、ユーザー心理を考慮した上でメインとサブのスクリーンの考えを打ち出し、今後ユーザーにとって有用なさまざまなアプリ、コンテンツなどのサービスを提供していこうとする企業姿勢はマーケットイン発想である。

写真●ソニーの4スクリーン戦略
写真●ソニーの4スクリーン戦略