「これまでのITエンジニアは、自分の仕事はここまでと線引きしていたかもしれない。しかし良いシステムを作り、運用を始めてからより良くしていくためには、1人のエンジニアがなるべく多くの役割を担っていく必要がある」。

写真●東急ハンズの長谷川秀樹氏(ITコマース部長 執行役員)
写真●東急ハンズの長谷川秀樹氏(ITコマース部長 執行役員)

 2012年11月7日に東京都内で開催された「X-over Development Conference 2012(XDev2012)」で、東急ハンズの長谷川秀樹氏(ITコマース部長 執行役員)が登壇(写真)。「ビジネス変革で求められるITエンジニア像」というテーマの講演の中で、求められるITエンジニア像をこのように語った。

 長谷川氏が描くITエンジニア像とは、システム開発のあるフェーズにとどまらず、システムの企画と開発全般と運用までを自分自身で完結できる「バーサタイリスト(多能工)」だ。

 例えばシステムの運用フェーズにおいて、バーサタイリストは、ただシステムそのものを見ていればよいわけではない。そこで必要なのは、「小売りのシステムであれば、売上実績を確認し、それを基に業務の見直しや新機能の追加といった策を考えて打つことができる人材」(長谷川氏)という。

 そんなバーサタイリストになるのは難しそうだ。しかし長谷川氏は「スーパーマンのように何でもこなす優秀な人材にしかできないと考えてはいけない。普通のエンジニアでもバーサタイリストになれる」と説明する。

 実際東急ハンズでは、3年ほど前から情報システム部門のエンジニアが自社開発・運用をしている。一人ひとりのITエンジニアが、企画、開発、運用をすべて担当する。「今では、情報システム部門にいる物流在庫管理システムの担当エンジニアは、運用フェーズに入ったシステム上の売り上げデータのチェックも自ら行う。それを基に、自動発注ロジックを組み込むなど、業務の改善策を考案し実現させている」(長谷川氏)という。

小さなプロジェクトで経験を積む

 どうやって東急ハンズの情報システム部門の担当者は、1人で開発から運用までを担当できるようになったのか。長谷川氏は「2,3人で構成する小さなプロジェクトを担当してやり切ってもらうことで、バーサタイリストが育った」という。

 SIベンダーが敷く数十人といった規模の大きなプロジェクトでは、役割が分担されITエンジニアがその中でしか仕事をしない。担当する仕事以外の経験を積めないので、バーサタイリストになるのは難しい。そこでプロジェクトの規模を小さくし、少ないメンバーで多くの仕事を担当させることで経験を積ませている。

 さらに作成する開発ドキュメントも、画面イメージなどの最小限に抑える。ロジックの説明はソースコードのコメント欄に書いて、複数の成果物を作成しないような工夫も凝らしている。

 ITを専門にしてきたエンジニアがビジネスの領域に踏み込むのには、勇気がいる。ところが長谷川氏は「業務経験がないと身構える必要はない。『小売業は商品を仕入れて売っている。そんな難しいことをしているわけではない』といったスタンスで取り組むとよい」とアドバイスする。

 「まずは業務部門の責任者と臆せず対話することが大切。私もSIベンダー側にいた人間だったが、今では社内の業務部門の責任者と普通に対話できるようになっている」とITエンジニアにエールを送った。