企業内外に存在する多種多様で膨大なデータ資産の生かし方が事業の優劣を決め、企業の競争力を左右する――。ビッグデータ活用が注目を集めるなか、企業はどのような姿勢で取り組めば成果につなげることができるのか。ビッグデータ活用を成功に導く勘所を、識者や先進ユーザー企業、ベンダー企業へのインタビューを基に紹介する。

 今回登場するJR東日本ウォータービジネスは、自販機による売り上げのPOS(販売時点情報管理)データを収集。蓄積した膨大なデータの分析結果から、全社のマーケティング戦略を立案している。石戸谷社長にビッグデータを活用する秘訣を聞いた。

(聞き手は田島 篤=ITpro副編集長)

石戸谷 隆敬(いしどや たかゆき)氏
石戸谷 隆敬(いしどや たかゆき)氏
1990年東日本旅客鉄道に入社。JR東日本千葉支社などで6年間勤務した後、三菱商事へ2年間出向。その後、グループ会社およびJR東日本事業創造本部において、東京駅開発や地方不振会社の支援に携わる。2012年6月、JR東日本ウォータービジネス代表取締役社長に就任。(写真:都築 雅人)

 自動販売機の前に購入者が立つと、小型センサーでとらえた画像から性別や年齢を認識するとともに、時間帯や気温に合わせて、おすすめの飲料を提示する――。こんな次世代自販機が、東日本旅客鉄道(JR東日本)のエキナカ(駅構内)に増えてきている。JR東日本ウォータービジネス(東京・渋谷区)が運営する飲料自販機「アキュア」の最新鋭機である。

 同社が、この自販機を投入したのは2010年8月。当初、東京・品川駅に2台を設置したところ、周辺の従来型自販機に比べて売り上げが約3倍にも伸びた。現在、設置台数は400台を超え、当面は500台の展開を目指している。

 この次世代自販機の成功で注目される同社だが、実はこれ以前から緻密にマーケティングデータを分析・活用していた。この礎があったからこそ、次世代自販機を開発・運営できたのである。

「自販機のビジネスは流通業でありながら、従来はスーパーやコンビニのようにはPOSデータを入手できませんでした。商品を補充するタイミングで、どの商品がどれだけ売れたといった程度の情報しか得られなかったのです。しかし、マーケティング戦略を立案する上で、どうしてもPOSのように詳細なデータが必要だと考えていました。売り上げに貢献すると想定した戦略でも、事前に検証できないからです。とにかく、仮説を検証する環境が欲しかった。

 過去には、人海戦術で販売データを入手したこともあります。社員に自販機を監視してもらい、どんな人が何時に何を買ったのかを記録しました。こうした取り組みをするほど、POSデータが必要だと思っていたのです」