ハード・ディスク・コントローラなどのLSIが故障したり,湿気が原因で電子部品の特性が変化したりする場合も少なくない()。こうした状態になると,突如としてスピンドル・モータが起動しなくなったり,スピンドル・モータが起動してもHDDを機器が認識できなくなったりする。最初は間欠的な障害だが,最終的には重大な障害に至る場合も多く見られる。

電子部品の故障によって,HDDが動作しなくなることもある。LSIが焼損する例もあった(a)。別の事例では,故障した受動部品の周辺を調べると,端子間が短絡していた。端子間にはイオン・マイグレーションとみられる痕跡が確認できた(b)。
電子部品の故障によって,HDDが動作しなくなることもある。LSIが焼損する例もあった(a)。別の事例では,故障した受動部品の周辺を調べると,端子間が短絡していた。端子間にはイオン・マイグレーションとみられる痕跡が確認できた(b)。
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 LSIの故障で一時話題になったのが,チップの端子に含まれるAgのイオン・マイグレーションによる短絡である1)。半導体のパッケージ材料の樹脂に難燃剤として添加されていた赤リンが原因とみられる。赤リンが湿気などの影響でリン酸に変化し,端子のメッキ部分のAgを溶かしてしまう。端子間に電圧が印加されている場合に,Agがイオン・マイグレーションを起こす。イオン・マイグレーションは,Agだけでなくイオン化傾向の高い材料であれば,高温高湿下で発生する可能性があるので注意が必要だ。部品や材料の変更が発生した場合には機器メーカーに通知することをHDDメーカーに義務付けるなどの予防策が必要になる。

参考文献1)大石ほか,「富士通HDD問題は,なぜ起きたのか」,『日経エレクトロニクス』,2002年10月21日号,no.833,pp. 99―119.

 LSIに組み込んだファームウエアの制御パラメータが不適切だった例もある。高温で書いたデータが低温で読めなかったり,その反対のことが発生した。依頼主がパソコンに搭載するHDDを選定するため,加速試験の1つである温度サイクル試験を行っている時にこうした症状が発生し,解析を依頼された。ファームウエアの制御パラメータが適切でないことが判明して,機器メーカーはこのHDDを不採用とした。

 通常,HDDは,高温下では書き込み時の電流を抑え,低温下では大きな電流で書き込む。温度の変化により記録媒体の磁気特性が変わるからである。問題のHDDでは,この制御パラメータの設定が適正でなかった。そのため,異なる温度で書き込んだデータが読み出せなかったようだ。