ディスクを回すスピンドル・モータも最近ではトラブルの種である。ここにきて採用が広がってきた動圧軸受けを用いるスピンドル・モータに起因する故障が幾つかある。

 記録媒体を高速で回転させるスピンドル・モータの動圧軸受けには,完全充填型と部分充填型の2種類がある注)。このうち部分充填型は,完全充填型に比べて安価だが障害が発生しやすいので特に注意が必要だ。

注)動圧軸受けは,金属同士の接触がないため,ボール・ベアリングより寿命が長い。このため,動圧軸受けを用いるスピンドル・モータはここ3年~5年の間に 急速に普及してきた。動圧軸受けは,完全充填型と部分充填型の2種類に分類できる。完全充填型は主軸の周りが完全に潤滑油で満たされているため,空気との 接触面が少なく,気泡の混入や潤滑油が漏れる可能性は低い。しかし真空中で潤滑油を充填しなければならないため組み立てコストが高くなる欠点がある。これ に対して部分充填型は潤滑油の充填時に特別な環境を必要とせず,安価に組み立てられるため現在主流になっている。

 部分充填型では潤滑油の充填時に異物が混入する恐れがある。潤滑油と空気が接触する部分が多いため,気泡の混入や潤滑油が漏れる可能性も高い。このほかにも,HDDを長時間連続で使用して高温になった場合に,潤滑油中に気泡が発生したり,潤滑油が偏って回転軸が偏心したりして障害を引き起こす例もある()。

スピンドル・モータの動圧軸受けには,完全充填型と部分充填型の2種類がある(a)。部分充填型は,完全充填型に比べて安価だが障害が発生しやすい(b,c)。スピンドル・モータ・メーカーは部分充填型を改良して,潤滑油が拡散しないように側面にヘリンボーン状,底面にスパイラル状の溝を形成している。回転時にこれらの溝が潤滑油を内側に引き込む。
スピンドル・モータの動圧軸受けには,完全充填型と部分充填型の2種類がある(a)。部分充填型は,完全充填型に比べて安価だが障害が発生しやすい(b,c)。スピンドル・モータ・メーカーは部分充填型を改良して,潤滑油が拡散しないように側面にヘリンボーン状,底面にスパイラル状の溝を形成している。回転時にこれらの溝が潤滑油を内側に引き込む。
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 部分充填型の動圧軸受けモータによる障害は,HDDの回転が止まって潤滑油が元の状態に戻ってから再び動作させると正常に動作することがあるため,原因を発見しにくい。記録媒体やヘッドにキズや異物が付くわけではないので,HDDを分解しても,にわかには障害原因が分からない。間欠的で再現性の低い障害を繰り返した後に,突然全く動作しなくなるから厄介である。

 ある依頼主が,故障が発生したHDDをHDDメーカーに送付したところ,HDDメーカーの調査でなかなか再現しなかったことから,我々に解析を依頼してきた例がある。事務用機器でかなり頻繁に故障が発生していたという。解析の結果,部分充填型動圧軸受けを用いたスピンドル・モータの回転軸の偏心が原因であることが分かった。最終的に機器メーカーは,HDDを1日に1度止めるようにソフトウエアを変更して,偏心を防ぐことにしたようだ。