HDDの故障の原因としてよく知られているのが,外部から加わる振動や衝撃だ。振動や衝撃によりヘッドが記録媒体にぶつかって記録媒体にキズを付け,データを破損してしまう(図1)注1)。そうなると特定の位置で読み書きのエラーが頻発することになる。
注1)ヘッドと記録媒体の物理的な距離は,記録密度の向上と共に縮まっており,ディスク1枚当たりの記録容量が80Gバイトの3.5インチ型HDDでは5nmを切った。これにより,ヘッドと記録媒体の衝突による障害が起こりやすくなっている。
それだけではない。衝撃によって発生した記録媒体の破片は空中に浮遊して,ほかの異物と同じような問題を引き起こす。振動による応力でプリント配線基板のビアやスルー・ホールと配線が分離したり,ハンダ部分に発生する亀裂で基板とLSIの接続が保てなくなったりする場合もある。こうなるとHDDを機器から認識できなくなる。機器メーカーは外部からの衝撃や振動を十分に吸収できる設計にすべきである。
最も注意が必要なのはスライダを支えているサスペンションに加わる振動や衝撃である。多くのサスペンションが1kHz~4kHzの周波数成分を含む振動や衝撃で共振して大きく動く。外部から加わった振動や衝撃にサスペンションの共振周波数成分がわずかしか含まれなくても,HDDの実装やHDD内部の構造,サスペンション周辺の構造などによって共振周波数成分が強調されてサスペンションに伝わる可能性がある。特に長時間の振動の場合には,仕様に定められた値の範囲内でも障害を誘発する確率が高い注2)。なお,振動への耐性は製品により異なるので注意が必要だ(図2)。
注2)HDDの仕様にはそれぞれ振動と衝撃に対する保証基準が加速度(g値)で明記されている。
我々の元には,事務機器の搬入や設置の過程で加わった衝撃によって故障したHDDの解析依頼が舞い込んだことがある。機器の搬入や設置の際に,どの程度の衝撃がサスペンションに加わっているかを測定した。HDDに加わった衝撃自体は仕様の範囲内だったが,サスペンションには3kHz~4kHzの強い衝撃が加わっていた。
実験後にHDDを分解したところやはり記録媒体にキズが付いていた。衝撃によってヘッドが記録媒体にぶつかった場合には,複数枚の記録媒体を搭載するHDDであればそれらの同じ位置に,1枚の場合は表裏の同じ場所にキズが見つかる。こうした現象から原因を特定できる。このデータを基に,機器メーカーはHDDを取り巻く機構部の設計を3kHz~4kHzの衝撃を吸収するように変更して問題を解決したと聞いている。