スピンオフの起こりやすさを調べるために,複数のHDDで潤滑剤の厚さの変化を実際に測定したところ,極めて短時間で潤滑剤が移動する例が見られた。+65℃の高温で連続して動作させた場合,潤滑剤の厚さに変化がなかったHDDがある一方で,記録媒体の回転による遠心力で潤滑剤が外側へと移動し内側の潤滑剤が薄くなったHDDがあった()。機器メーカーがこうした試験をすれば,問題が起きやすいHDDを事前に排除できるだろう。

記録媒体の潤滑剤の膜厚を測定した。黒い実線は新品,青の実線は購入後2カ月~3カ月間使用したHDDである。短期間で潤滑剤の膜厚分布が大きく変化した例である。新品と使用後で潤滑剤の量が減っており,その分は空気中に飛散したと思われる。
記録媒体の潤滑剤の膜厚を測定した。黒い実線は新品,青の実線は購入後2カ月~3カ月間使用したHDDである。短期間で潤滑剤の膜厚分布が大きく変化した例である。新品と使用後で潤滑剤の量が減っており,その分は空気中に飛散したと思われる。
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 潤滑剤が劣化する原因は,仕様外の高温での長時間運転だけではない。HDD内部の部品から放出されるガスによる化学反応や,スピンドル・モータから漏れたオイルとの反応などもある。そもそも潤滑剤の特性が最初から十分でないことさえある。こうした場合にもスピンオフやヘッドへの潤滑剤の付着は起こり得る。

 これを機器メーカーが避けるには,仕様外の高温では利用しないのはもちろんのこと,HDDを採用する際の試験を怠らないことが重要だろう。