ヘッドと記録媒体の接触を避けるなどの目的で記録媒体に塗布している潤滑剤の特性劣化が,HDDの障害を引き起こす場合がある()。

ヘッドと記録媒体の距離は,記録密度を向上するたびに近づいてきた。スライダの大きさを50mと仮定すると,ヘッドと記録媒体の距離は約0.5mmに相当する。旅客機が地上0.5mmの所を飛んでいるようなものである。スライダの記録媒体側には,空力特性を利用してスライダの浮上姿勢を安定にするための凹 部がある場合が多い。この凹部によって気圧が低下するため,異物が存在すれば巻き上げられ,HDDの故障の原因となる。
ヘッドと記録媒体の距離は,記録密度を向上するたびに近づいてきた。スライダの大きさを50mと仮定すると,ヘッドと記録媒体の距離は約0.5mmに相当する。旅客機が地上0.5mmの所を飛んでいるようなものである。スライダの記録媒体側には,空力特性を利用してスライダの浮上姿勢を安定にするための凹 部がある場合が多い。この凹部によって気圧が低下するため,異物が存在すれば巻き上げられ,HDDの故障の原因となる。

 我々が受けた故障解析の依頼の中では,事務用機器の例がある。この製品の障害の原因が潤滑剤の劣化だった。機器メーカーがHDDメーカーの仕様を少し超えた温度で使用していたことから,HDDメーカーの保証を受けられなくて我々の元に相談に訪れた。

 該当HDDを調べると,記録媒体の潤滑剤の膜厚分布が変化していた。高温での長時間使用により,劣化した潤滑剤が遠心力で外周部へ向かって移動する「スピンオフ」が発生したと推測できる。スピンオフを起こしたHDDは,ヘッドと記録媒体の摺動耐力が劣化し,少しの振動でもヘッドと記録媒体の双方が接触・損傷してしまう。

†摺動耐力=スライダが記録媒体に接触した際に,キズを付けないようにする潤滑剤の能力のこと。摺動耐力が衰えると,スライダが記録媒体に接触した際にキズを付けたり,潤滑剤がスライダに多量に付着したりする。

 外周部の潤滑剤は逆に厚くなってスライダの浮上に影響を及ぼし,外周部周辺でヘッドの浮上姿勢が不安定になる。その結果,ヘッドが記録媒体に接触して,劣化した潤滑剤が付着し,さらにヘッドの浮上姿勢が悪化する。こうなると記録媒体やヘッド自体に異常がなくても,記録媒体全域にわたって読み出しや書き込みのエラーが多発する。ひどい場合には,潤滑剤が記録媒体よりも外側に飛び散ってしまうほどだ。