我々は、ヘッドのロード/アンロードに使うランプ部とヘッドの可動範囲を決めるストッパ部で、摩耗により異物が発生した例を確認している。例えば業務用機器のHDDで、ランプ部の摩耗が原因とみられる故障が発生した例がある。2カ月間で全装置の10%程度が故障したという。機器メーカーはHDDメーカーに解析を依頼したが、「ユーザーの取り扱いが原因」との回答しか得られなかったため、我々が解析することになった。

 このケースでは、HDDは非動作時にヘッドを守るためにロード/アンロード方式を用いていた注)。この方式ではヘッドを退避させるときに、ヘッドの先にあるリブと呼ばれる部分が記録媒体のすぐ外側にあるランプ(傾斜路)を滑り上がって固定される。ヘッドのロード/アンロードの回数には通常で30万回~50万回、突然の電源断などによる緊急停止の場合には3万回~5万回という寿命がある。これを超える極端な回数のロード/アンロードを繰り返すとランプ部が摩耗するため、機器の設計の際に十分注意する必要がある(図1)。

図1 ヘッドが行き来するランプ部が、ヘッドの先にあるリブによって摩耗する場合がある(a)。摩耗によって発生した異物がスライダに付着すると、浮上姿勢が不安定になる(b)。スライダに付着した異物がリブにも付着していたので、ランプの摩耗で異物が発生したと推測できる。
図1 ヘッドが行き来するランプ部が、ヘッドの先にあるリブによって摩耗する場合がある(a)。摩耗によって発生した異物がスライダに付着すると、浮上姿勢が不安定になる(b)。スライダに付着した異物がリブにも付着していたので、ランプの摩耗で異物が発生したと推測できる。
[画像のクリックで拡大表示]
注)ヘッドと記録媒体が衝突する確率を減らすために、HDDにアクセスがない場合にヘッドを退避させる機構が大きく分けて2種類ある。1つが記録媒体の非記録部分に退避するもの、もう1つが2.5インチ型以下の小型HDDによく用いられているロード/アンロード方式である。

 我々が依頼を受けた業務用機器の例では、これほどの回数ロード/アンロードを繰り返したわけではなかった。解析の結果、仕様温度範囲内だったが高温下でロード/アンロードを繰り返したためにランプ部に摩耗が発生し、極めて短い時間に障害に至ったと結論付けた。つまり、高温下で使う機器では、通常以上にロード/アンロード回数に気を使ったほうがいい。

 ストッパ部の摩耗を見つけたのは、オフィス用機器のHDDの故障解析をした時だった。ストッパは、ヘッドが記録媒体の外に飛び出したり、スピンドル・モータに衝突したりしないようにする機構である。スライダを支えるアーム部分が頻繁に衝突したり接触したりするため、材料や制御に問題があるとすぐに接触面が摩耗してしまう(図2)。我々が解析したストッパはTiでコーティングされており、摩耗によってTiの微粉が飛散してヘッドなどに付着していた。HDDメーカーの制御に問題があったようだ。なお、この例ではどれくらいの頻度で故障が発生したか教えてもらえなかった。

図2 スライダの動作範囲を決めるストッパ部分が摩耗すると、表面にコーティングしたTiの微粉が飛散する(a)。飛散したTiは、ヘッドなどに付着してHDDの異常につながる(b)。
図2 スライダの動作範囲を決めるストッパ部分が摩耗すると、表面にコーティングしたTiの微粉が飛散する(a)。飛散したTiは、ヘッドなどに付着してHDDの異常につながる(b)。
[画像のクリックで拡大表示]