ソーシャルクラウドとインタークラウド

 高い信頼性・可用性を必要とする社会インフラやBCPを実現するために、複数のクラウドで計算機やストレージ、およびネットワークなどのリソースを確保し、それらを統合した環境で構築したサービスを提供する“インタークラウド”の重要性が高まっている。

 一般に、クラウドは一つのデータセンターに収容された膨大なリソースから、個々の利用者に対して必要なときに必要なだけ提供するものである。しかしながら、一つのデータセンターでのみサービスを運用していると、そのデータセンターのリソースの利用率が高くなった場合にサービスが利用するリソースを拡張するスケールアウトの要求が受け付けられなくなる、そのデータセンターまたはデータセンターにつながるネットワークに災害や停電などの突発的な障害が起こった時にサービスを継続して提供することができなくなる、最悪の場合、サービスが管理しているデータそのものが紛失するなど、致命的な問題が起こりうる。そこで、地理的に分散するデータセンターをまたがってクラウドのサービスを構築するための技術が注目されている。

図1●インタークラウド利用イメージ
図1●インタークラウド利用イメージ
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 Amazon Web Serviceなどの商用のパブリッククラウドでは、データセンターのようなリソースプールのことをゾーンと呼び(物理的なデータセンターとゾーンとの対応は明確にされていないため、リソースプールとする)、現状でもゾーンをまたがるサービスを各利用者が構築することはできる。しかしながら、地理的に分散したゾーン間で安全かつ一定の質(サービス応答時間など)を保持したままサービスを構築・提供するための技術が確立されていない、パブリッククラウドごとに利用、管理するためのインタフェースが異なるなどの課題がある。そこで、インタークラウドに関する先進技術動向と標準化動向について調査した。

インタークラウド関連の先進技術動向

 インタークラウドに関する先進技術動向の調査にあたり、ACMやIEEEの主要な学会に関して、インタークラウドに関連する論文を100件ほど抽出し、そのうち特にインタークラウドに関連する論文59件に対して、表1に示す技術領域で分類した。表1において、インタークラウドはクラウドを複数連携させるモデルを表し、ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドとプライベードクラウドを連携させるモデルを表す。

表1●インタークラウド関連論文の分類
項目 インタークラウド ハイブリッドクラウド
アーキテクチャ 4 0
ビジネスモデル 2 1
セキュリティ 9
セキュリティ一般に関する考察
ID管理、サービス信頼性、侵入検知
5
セキュリティマネジメント
プライバシー保護
マネジメント 6
リソース記述言語
SLA最適化
分散配置アルゴリズム
メッセージングプロトコル
15
コンフィギュレーション管理
ワークフロースケジューリング
リソースプロビジョニング
ネットワーク 3
GENIにおける活動
OpenFlow適用
Network Resource Management
0
仮想化 2
WANでのLive Migration
仮想マシンのモビリティ
6
OVF準拠の基盤技術(VMWare社)
VMマイグレーション技術
その他 2
クラウドシミュレータ
Hadoop
4
ゲノム解析など生物学用のハイブリッドクラウド
Space Weather Science向け
合計 28 31

 インタークラウドに関連する論文では、インタークラウドにおける全体アーキテクチャの提案や、少数ではあるがビジネスモデルに関するものが見受けられた。また、2011年にIEEE CloudComでNetCloudワークショップが開催され、ネットワーク仮想化技術やリソースマネジメントの提案がなさており、今後インタークラウドのネットワークアーキテクチャに関する研究が活性化していくと考えられる。

 一方、ハイブリッドクラウドは現時点でAmazonなどのパブリッククラウドと企業内のプライベートクラウドが連携する事例が複数存在している。そのため、パブリッククラウドとプライベートクラウドに機能をどのように配備し、スケジューリングするかに関する論文が多く抽出された。また、一般的なアーキテクチャに関する論文は抽出されなかったものの、特定用途(ゲノム解析などの生物学、宇宙天気向け)を想定したハイブリッドクラウドの実装に関する論文がいくつか抽出された。ネットワーク領域に関しては、ハイブリッドクラウドに関連する論文は抽出されず、既存技術であるVPNなどを用いてネットワークを構築しているものと考えられる。