テレビと同じように、ネットやSNSから最新情報を得る人が増えている。このことに気づいた多くの地方自治体が避難指示などを伝える緊急警報システムを見直している。多層的に警報を発動するのが狙いだ。

 ここでいう「多層的」とは、複数の通信手段を使って警報を伝達することを指す。防災行政無線だけでは警報が伝わらなかった反省を踏まえている。

 新しい警報システムを具現化したのが、東京都が2012年9月1日に実施した防災訓練である(図4)。午前9時30分、東京都品川区の目黒駅周辺で防災無線のサイレンが鳴った。地震発生を想定した訓練の開始だ。やがて肉声のアナウンスが始まった。「その場を動かず、身の安全を確保してください」「安否確認でご自身の無事を知らせてください」。

図4●市民への避難指示や緊急警報の提供手段
図4●市民への避難指示や緊急警報の提供手段
従来は防災行政無線に依存していたが、ネットや携帯電話、スマホ、デジタル放送などを駆使する仕組みに移行している。東京都が9月1日に実施した避難訓練では、緊急速報メール/エリアメール、電子看板、Twitterなどを活用した
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 このとき、駅周辺で携帯電話のメール着信音が鳴り響いた。訓練と断ったうえで「身の安全確保」「落ち着いて安否確認を」と促すメッセージが届いている。これは「緊急速報メール」「エリアメール」と呼ぶ、携帯電話事業者のサービスを使った同報メール。加入者全員に強制的にメールを送信する仕組みだ。東京都は主要3社と契約済みで、市や区など行政区域単位で配信地域を指定できる。

 その後、避難所4カ所への誘導が始まった。ネットでは都庁のホームページやTwitterで同じ情報を掲載している。リツイートにより、訓練の情報はネットで拡散していった。

 駅構内では、同じ内容を自販機のディスプレーにも表示していた。実際の整備はこれからだが、都は防災情報を主要な電子看板に表示するシステムを構築する考えだ。FMラジオでも災害情報の放送を始めた。携帯電話を持たない高齢者や自動車で移動中のドライバーらに配慮した結果である。

 兵庫県はエリアメールなどに加え、地上デジタル放送の活用を始めた。地元テレビ局やNHKの協力を得て、防災本部からの災害情報をデータ放送で配信。発災時に画面に強制表示するようにした。放送局とのシステム接続は、総務省の関連団体が受託している。宮城県や静岡県なども同システムの採用を決めた。

ミラーサイトでアクセスを分散

 ネットの中でも情報発信を重層化する取り組みが進んでいる。震災ではアクセスが殺到して、一部自治体サイトが閲覧しにくくなった反省からだ。

 ヤフーは発災後にミラーサイトを開設する交渉を全国の自治体と進めている。和歌山県のほか30以上の市町村と既に協定を結んだ。「Yahoo! News」などが発信する災害ニュースでは、自治体のミラーサイトも紹介して、アクセスを分散させる。避難所の情報も事前に自治体から受け取ることで地図サイト「Yahoo! Maps」で確認できるようになり、利便性が高まる。

 福岡市は、地域限定ではあるが、代替の通信手段を市民に提供する。市営の地下鉄駅や市の施設では、災害時に無線LANサービスを会員登録を不要にして無料で開放する。携帯電話がつながりにくい場合に、無線LAN経由で市の防災サイトを閲覧したり、安否確認サービスを利用したりできるようにした。