このところ、日本でも「リーン・スタートアップ」「顧客開発」の考えが広まりつつあり、実践している人も少なくありません。今回の話題は、そうした実践者への警告とも言える内容です。教科書どおりの方法を実践しようとするあまり、もっと大切なものを見失ってはいないか、検証する必要があるというエピソードの紹介です。(ITpro)

 創業者の能力とは、いかに新しいビジネスのパターンを認識し、それに応じてすぐにピボットすべきか理解することです。ここでいうパターンはノイズであることがあり、彼らのビジョンは幻想にすぎないこともあります。ビジョンと幻想を見分けられるとすれば、スタートアップの混沌(カオス)を避けられるかもしれません。

 私の生徒だったユーリは、ビッグ・データ分析の会社を昨年創業しました。彼は、博士論文を人気製品に転化することで資金を調達し、今では従業員30人の会社のCEO(最高経営責任者)に就きました。彼が顧客開発の手法と精神を採用し、さらに実践していることを見るのは、私にとっては嬉しいことです。彼は、絶えず顧客に接触して意見を聞き、販売活動をして学んでいました。

 ただし、そこに問題があったのです。

 私は彼の会社で時間を過ごし、初期段階にあるベンチャー企業を分析する彼らのソフトを使ってみました。彼の会社での体験を通じて、私が創業者として経験した最善のことと最悪のことを思い出しました。

週ごとのピボット

 毎週1回、顧客とのミーティングから戻ってくるユーリは、新しい洞察にあふれているようでした。彼は「私たちは間違った製品を作っている。今すぐピボット(軌道修正)しなくてはならない」と宣言します。彼らが採用しているアジャイル開発を放棄したり、全てのビジネスモデルを投げ捨てることもあり、そうなると全社は消火訓練状態になり、彼の最も新しい洞察に基づいて、エンジニアリング部隊は対応を始めるのでした。

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 別の週にユーリは、バーンレート(現金消費率)、預金残高の減少、顧客からの憂うつなコメントなどの現実に打ちのめされていました。今回は、彼はオフィスに帰って来るなり「私たちは、やるべきことをちゃんとしなければ、3カ月で仕事がなくなる」と宣言しました。彼が顧客に「あなたからの注文がないと、90日で廃業しなければならない」と言っているのを聞いたこともありました。