物価が日本の5分の1とも8分の1ともいわれるベトナムだが、幸福度や満足度は日本より高いのでは、と時々思う。街角で風呂椅子に座って食事をしている人の顔はどれも明るく、悩みを抱えているようには見えない。

 若くてエネルギッシュな労働力を求め、日本企業のベトナム進出ラッシュは続いている。2000年頃は製造業が中国依存リスクを回避する「チャイナプラスワン」と呼ばれる動きが多かったが、最近はトレンドが変化している。ベトナム南部では、ファミリーマートなどサービス業の進出が著しい。北部では中小規模の裾野産業の進出が目立つ。あるベトナム経済勉強会は最近のトレンドを「5-5-5トレンド」と名付けていた。50万ドル以内の資本金、500平方メートル以下の「レンタル工場」、50人以下の従業員という企業の進出が多いらしい。

不況でも街中は元気があふれる、マクドナルドもBTもベトナムへ

 実際、KDDIベトナムがIT関連を手伝うユーザー企業についても、規模感や要求条件が大きく変わってきたと感じる。一昔前は何ページもあるRFP(要求仕様書)に回答する形が多かった。最近は社長自らが来社、ベトナムでのIT事情の世間話をした後に「予算は無い」と言われることが多い。

 そうした企業の需要に応えるため、関連会社のテレハウスベトナムと連携して、初期投資を抑えたIT機器レンタルサービスや1カ月当たり9000円から利用できるVPS(仮想専用サーバー)サービスを開始した。南部では双日系の工業団地と提携して、工業団地を丸ごとIT化した。入居後すぐに使えるITサービスをコンセプトに、来年夏の稼働を目指して目下構築中である。

そんなベトナム、実は不景気?!

 意外かもしれないが、ベトナムは実は不景気だ。日本のニュースではエネルギッシュな映像が流れ、出張や旅行で訪れてもそうは思えないかもしれない。しかし昨年から経済は下り坂。銀行の統廃合が進み、不動産、建築関係は軒並みブレーキがかかっている。政府系通信事業者も投資を凍結した。

 昨年のCPI(消費者物価指数)は20%近くに達し、不景気に拍車をかける。国民食でもあるフォー(米粉の麺)は3年前は2万5000ドン(約92円)だったが、今では4万5000ドン(約166円)である。ただ、3年前も今も街角のベトナム人に変化は見られない。

 最近のローカル紙で、米ファストフードチェーンの進出が加速しているとの報道があり、ついにマクドナルドも進出を検討とのニュースが流れた。英BTがベトナム進出とのニュースもあり、欧米大手も加わったベトナム進出ラッシュが続いている。

 ベトナムと共に発展しようとビジョンに掲げる当社も、不況に負けないよう、そしてベトナムに負けないようにお客様に笑顔を届けていきたい。

福田 浩喜(ふくだ ひろき)
2009年10月からKDDIベトナム社長、2011年4月よりテレハウスベトナム会長を兼務。10年以上の米国赴任を含め、会社人生の半分を海外で過ごす。娯楽の無いベトナムで、土曜日は“どみんの会”(土曜日に皆でゴルフをする会)の主幹事を務め、日曜日はベトナム人観察で忙しい。日本に残している妻と3人娘を夏休みに呼ぶことが楽しみな50歳。