AI(人工知能)は人間のように思考できるか。このテーマについてはとっくの昔に結論が出ていると思われる。それでも、AI関連技術の進歩もあって今日でもしばしば論じられ、書籍が刊行されている。本書もその一冊だが、著者が立てた企画が斬新である。

 著者は「最も人間らしい」AIプログラムを選ぶ大会に出場し、本書の原題である「Most Human Human」(最も人間らしい人間)に選ばれようとする。大会の審査員は端末を通してAIとサクラ(本物の人間)と対話し、どちらが人間かを選ぶ。最多得票のAIが「最も人間らしい」として賞金を得る一方、最多得票を得たサクラが最も人間らしい人間になる。

 大会までの数カ月間、著者は「言語学者、情報理論学者、心理学者、法律家、哲学者」を訪問し、人間らしく振る舞うにはどうすればよいかを聞いて回った。そこで得た知見を第2章から10章にわたって紹介している。大会で賞を得た歴代のAIプログラムの仕組み、「米IBMのAIはチェスのチャンピオンに勝ったとは言えない」話など、いずれも面白い。著者が参加した大会の審査結果は11章で明らかにされる。

 AIを語る一方、著者は「人間とは何か」について、アリストテレスやデカルトまでさかのぼって論じていく。著者はコンピュータと哲学を学んだ科学ジャーナリスト兼詩人なので哲学や文学からの引用も多い。「本書はAIやその歴史(中略)を記したもの」だが「本質的には、人生について記したものである」。

 人間の本質として著者は「欲望と理性がぶつかり合って一つになり、己の限界をわきまえながら好奇心、関心、啓発、驚き、そして畏敬といった感情をほとばしらせる」ことだと述べる。計算できないものを知り、それを探す知覚が重要で「反応がよく繊細で機転が利くことが重視される」と書く。いずれも新しい指摘ではない。人間はAIほど急には変わらないからだ。

 「AIは人間の敵でない。人間を機械的な作業から解放し健康に戻してくれる」。それゆえ「全ての高校生はプログラミングを学ぶべき」と本書は説く。「規則に縛られた反復作業を命じられたときに(中略)対処法も編み出せる」からだ。企業のシステム部門は社員の人間らしい活動に貢献しているだろうか。

機械より人間らしくなれるか?

機械より人間らしくなれるか?
ブライアン・クリスチャン著
吉田 晋治訳
草思社発行
2940円(税込)