欧米ではブロードバンド上でのコンテンツ流通が本格化してきている。日本でも各種の映像オンデマンドサービスが勃興期を迎えている。2012年10月9日、ソフトバンクモバイルは新機種発表会席上で、HDMI端子に接続する形式のスティック型STB(TV FRISK)を使用して専門チャンネルやビデオオンデマンド(VOD)の形態で人気の番組を、据置型のテレビ端末にIP配信するスタイルのサービスであるスマテレを披露した。

 本稿では9月初旬、IFA2012(ベルリンで開催される欧州最大の国際家電製品見本市展、来場者数は24万人)とIBC2012(アムステルダムで開催される欧州最大の国際放送機器展、同5.1万人)を取材する中で、潮流が見えてきたOTT(Over The Top)ビデオサービスとセカンドスクリーンについて考えてみた。

展示会に欧州でのコンテンツ配信の多様性が伺える

写真1●IFA2012会場
写真1●IFA2012会場
韓国メーカーのPRが目立つ
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 8月31日から9月5日までドイツ・ベルリンでIFA2012が開催された(写真1)。ここ数年、IFAに対し積極的に協賛して会場屋内外での派手な告知と展示が目立つようになってきているのが、韓国のSamsung Electronics社とLG Electronics社である。両社はテレビ端末(以下テレビ)で他社製品と差異化を図るため、OLED(有機ELディスプレイ)による大型・超薄型化の展示に拍車をかけていた。

 OLEDによるテレビは、超薄型化へ容易に対応できることが特徴である。欧州でも地上デジタル放送の受信・視聴用のSTB(セットトップボックス)が普及してきており、チューナーレス化したテレビだとOLEDによる薄型化の特徴は一層生きることになる。STBによるサービスで特に有名なものは、地上デジタル放送の40数チャンネルが無料で視聴できる英国のFreeviewであろう。地上放送の多チャンネル化、高画質化(HDTV化)が主流であり、我が国で顕著な番組情報(EPG)やデータ放送は発達していない。

 もともとアナログテレビ時代からテキストデータを多重して文字だけが画面を占めるようなテレテキストこそ発達していたが、最近になって業界団体や放送事業者、情報家電メーカー各社から視聴者連動型のソーシャルTVサービスの提供も可能な双方向型の「スマートテレビ化」が提案されはじめた。顕著な例は、インターネット経由でもFreeviewのチャンネルが視聴可能なOTTビデオサービス「YouView」の提供がスタートされたことである。この流れに呼応し、衛星放送サービスSky加入者向けにマルチスクリーンサービス用アプリ「Sky GO」を提供しているBSkyBが、ここにきてSky未加入でも利用できるOTTビデオサービス「Now TV」の提供もスタートするなど、ユーザーの囲い込みにあらゆる伝送路を活用する配信サービスの姿が見えてきたようだ。

米Motorola MobilityのOTT用各種STB
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韓国Humaxの欧州向けOTT用STB(下)
写真2●OTTサービスを利用できるSTBの例
米Motorola MobilityのOTT用各種STB(上)、韓国Humaxの欧州向けOTT用STB(下)
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 一方、独、仏ではHbbTV(Hybrid Broadcast Broadband TV)が代表例に挙げられよう。地上デジタル放送のチャンネルとインターネット経由で提供される情報が、STB内で復調・多層化されテレビ上に表現される。例えば地上デジタル放送を補完するEPGデータや関連コンテンツなどはインターネット経由で流れてきて、ディスプレイ上で視聴者のリモコン操作などで表示される。放送局に対し視聴者として意見をメールしたりツィートしたりすることも珍しくなくなってきた。これに伴ってデジタル放送用のSTBはインターネット接続が加速的に進む傾向にあるようだ。この流れによりテレビ局のデジタル放送付加サービスと合わせて、OTTビデオサービスも勃興してきている(写真2)。

 テレビ視聴と同時にSTBのインターネット接続をしやすくするために家庭内での無線LAN環境も整いつつある。セカンドスクリーン用携帯端末(スマートフォン、タブレット、ラップトップPC)のブロードバンドインターネット接続も容易となる。例えば携帯端末ではTV視聴のみならず、放送番組へのソーシャルTVサービス経由での参加も容易だが、コンテンツホルダーが放送局の編成という手法を通じて視聴者に番組として伝えるのか、携帯端末に対し個々のコンテンツを直接届けるのかという大命題は、テレビのデジタル化によって一層悩み深いものとなってきていることは間違いない。

 OTTビデオサービスを考える時、展示会で披露されていたGoogle TV用STBが、ソニーにより、英国内で販売され始めたことに触れなくてはならないだろう。一見すると米国で失敗に終ったと揶揄されたGoogle TVだが、今日の欧州でのテレビ視聴環境での帰結はどうなるのだろうか。

写真3●ソニーのGoogle TV対応STBとXperiaタブレットが連動
写真3●ソニーのGoogle TV対応STBとXperiaタブレットが連動
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 ソニー自身は、自社の映像、音楽、ゲームのコンテンツを配信し、VAIO、Xperiaを冠したタブレットとスマートフォン、PlayStationを冠した各種のゲーム機器に至るまで、「Music Unlimited」「Videos Unlimited」「PlayStation Network」「PlayStation Mobile」というコンテンツ配信ネットワークサービスをユーザーが一つのIDで利用できるサービスを始めた(写真3)。ハードシームレスの環境でコンテンツを流通させられることが視野に入ってきたところだ。

 テレビの販売では韓国勢の攻勢に苦戦はしているところだが、ブランドイメージを保ちながら具体的にリージョン別の価格を明示して4Kディスプレイの新製品発売を宣言したという材料もあり、世界で闘う力は残っている。何といっても、放送受信とブロードバンド経由のOTTビデオサービスの両方を展開するには、如何にエンドユーザーの使い勝手がよく、合理的な価格でコンテンツに接することができるのかについて、徹底的に検証することがソニーの開発陣に求められているようだ。