欧州金融不安などの影響もあり、インドでは2011年度の経済成長率が前年度の8.4%から6.9%に低下した。その中でインド経済を引っ張るほどの成長を遂げているのが、IT/BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)分野である。2011年度には前年度比14.7%の伸びを記録し、市場規模も1000億ドルの大台に乗った。

 IT/BPO分野で好調なのは、データセンター(DC)とクラウドビジネス。日系を含む外資系企業の旺盛なインド進出が追い風となって規模の拡大を続けている。特にムンバイにおけるDCビジネスは盛んだ。DCとクラウドで現地トップ3のタタ・コミュニケーションズ、リライアンス・コミュニケーションズ、ネットマジック・ソリューションズ(NTTコミュニケーションズが買収)は、いずれも最大のDCをムンバイ近郊に置いている。

インドのデータセンター事情、トラブル多く2重3重の備えを

 ムンバイが選ばれる理由の一つは、インドの経済活動の中心地である点。インド準備銀行(中央銀行)の本店をはじめ、2大証券取引所のボンベイ証券取引所とインド国立証券取引所もムンバイに位置する。多くの金融機関や企業も本社を置いている。

 もう一つの理由は、電力供給がインドで群を抜いて安定していること。インドのほかの都市では1日数回の停電も珍しくないが、ムンバイではほとんどない。先般、日本でもニュースになった「インド大停電」の際もムンバイは問題なかった。ムンバイは電力会社が独占ではない都市で、二つの電力会社が競い合うことで品質向上につながっている。

 インド西海岸に位置するムンバイのDCには、中東やアフリカへの接続性を確保する役割もある。逆に日本や米国、シンガポールへの接続性を重視する場合は東海岸にあるチェンナイのDCを活用することが多い。南部のIT都市バンガロール、北部の首都デリーの近郊にあるノイダにバックアップセンターを置く企業も増えている。

何事にも複雑な手続きが必要

 企業のインドへの進出時に注意すべき点は、まずインフラ対策。いくらムンバイの電力供給が安定しているとはいえ、停電はゼロではない。設備老朽化による障害や、建物の新築工事による電力・通信回線の切断も多い。重要システムについては、電力・通信回線ともに2重3重のバックアップを備えたDCに置くのが望ましい。

 契約手続きにも注意したい。インドはかつて英国領だった影響からか、ドキュメントやエビデンス(証跡)を大切にする文化がある。1本の電話回線を申し込むだけでも大量の書類が必要となり、経験がなければ分からないことが多い。取引関係のあるインテグレータの現地支社などに依頼した方が良いだろう。

野上 啓(のがみ たかし)
NTTコミュニケーションズインディア副社長兼ムンバイ支店長。1997年NTT入社。企業向け通信サービスの企画部門でATM専用線や広域イーサネットのサービス企画を担当。2005年から社内留学制度で渡米し、米テキサス大学オースティン校でMBAを取得。2007年に帰国して東京・大手町の監視・故障受付センターで保守運用向上業務に従事。2010年7月から現職。