沖縄県の尖閣諸島を巡る日中の対立が、国内IT企業のオフショア戦略に影響を及ぼす可能性が出てきた。本誌の調べでは、国内IT大手のオフショア開発の発注先は7~9割が中国に集中している()。IT業界の「ソフト生産拠点」としての中国依存度の高さは際立っている。

表●国内大手IT企業におけるオフショア開発の状況
いずれの企業も、全発注量のうち7~9割超が中国に集中している
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 国内IT各社は、ともに「今回の反日騒動などによる開発現場の混乱はない」(日立製作所)と説明。「開発作業やプロジェクトは平常通り進んでいる」(NEC)と口をそろえる。

 ただ関係者の話によると、現場では危機管理のための特別体制が必要となった。例えばNTTデータは反日騒動以降、中国への出張をできるだけ控える緊急対応を取った。同社はオフショア開発を請け負う中国IT企業に対して、既に出張中の日本人社員や常駐者のための緊急連絡窓口を設置するよう依頼。出張者などの空港までの送迎にも現地社員を同伴させるなどの対策を講じた。必要な打ち合わせの大半は、テレビ会議で代替しているという。

 野村総合研究所は、中国への出張を控えることはしなかったものの、委託先で仕事をこなす日本人社員に一定期間にわたって通勤用の社用車を特別手配するなどの安全確保を徹底した。

 今のところIT大手各社は、「反日デモや暴動を契機に発注先を切り替えることはない」(富士通)「オフショア戦略に大きな見直しはない」(NTTデータ)と答える。各社とも中国への発注が過度に集中していることを騒動の以前からリスクとして認識しており、中国以外への発注割合を少しずつ増やす施策を進めている最中だからだ。

 とはいえ今回は、これまでの日中の政治的対立とは異なり、影響は経済面にまで及びそうだ。中国人従業員のモチベーションに与えた影響の見極めも難しい。IT大手はリスク分散を進めていると言うものの、「ここ数年は中国向けの比率がほとんど変わっていないのが実態だ。中国に代わる相手先をなかなか見つけられず、現状維持が続いている」(ある国内IT企業の幹部)。

 開発現場でのトラブルはないとはいえ、中国への依存度が高過ぎるのは事実だ。国内IT企業はミャンマーなど、新たな委託先の開拓を本気で急ぐ必要がある。さもないと今後も、中国偏重の影響を不意に受けるリスクを抱え続けることになる。