ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 米SEC(証券取引委員会)のスタッフは2012年7月13日、「米国企業の財務報告制度にIFRSを取り込むことについて検討するためのワークプラン」最終報告を公表した(原文はこちらで参照できる)。

 SECは2010年2月以来、「2011年中に米国へのIFRS導入の可否判断を行う」と言い続けてきた。ところが2011年には判断を下さず、2012年に入って予定より数カ月遅れで公表された最終報告も期待はずれの内容だった。これまでの論点を整理した新味のない総集編に留まっており、IFRS導入の時期や内容、方法のいずれも不明確であった。

 10月2日に約4カ月ぶりに開催された金融庁企業会計審議会の会議でも、この最終報告の説明があった(関連記事:IFRS適用方針を議論する金融庁審議会が4カ月ぶり開催、議論の進展なし )。金融庁は「米国の関係者からは『大統領選挙が終わらないと話にならない。結論を出すのは、早くて2013年半ばではないか』との意見があった」と説明した。

 日本はIFRS導入方針をいまだ明確にしていない。決められないのは、日本の政治も同じである。それどころか、米SECも同様であるということであろうか。

 今回と次回で、SECワークプランプロジェクトの活動経緯や最終報告書の概要、この報告書に関する諸団体の反応を見ていく。今回は活動経緯を中心に説明したい。

1 ワークプランプロジェクトの開始(2010年2月24日)

 SECは2010年2月24日、米国上場企業へのIFRSの適用について、それまでの「2014年から段階適用」という方針を「2015年以降から」に延期すると発表した。この方針変更には、SECコミッショナー全員が賛成した。

 ただし、「2011年中にIFRS採用の可否あるいは採用する場合の時期および方法を明確にする」という方針は変更しなかった。そこで2011年のIFRS採用可否判断に向けて、メアリー・シャピロSEC議長のもと、SECスタッフによる「ワークプランプロジェクト」を立ち上げた。そこでは、以下の六つの領域に関して検討し、2010年10月に中間報告を公表することを表明していた。

  1. 米国報告基準としてのIFRSの開発と網羅性および十分な適用可能性
  2. 基準開発の独立性(IASBの基準設定機関としての独立性)
  3. IFRSに関する投資家の理解および教育
  4. 会計基準変更によって生じる米国規制環境への影響
  5. 会計システムの再構築、契約書の変更、企業統治に係る規制、訴訟に係る規定対応などを含めた、大規模および小規模企業ともへの影響
  6. 人的資源の整備(投資家、作成者、規制当局等の教育・訓練および監査人の体制など)