「政府情報システム刷新有識者会議」は、第5回会合を2012年7月23日に、第6回会合を8月9日に開催し、8月9日には政府CIOの業務のよりどころとなる「政府情報システム刷新のための共通方針(提言)」(以下「共通方針」)を政府に提出した。

 岡田副総理は翌10日の定例記者会見で、リコージャパン顧問の遠藤紘一氏を政府CIOとして任命することを発表。8月17日には、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の第58回会合が持ち回りで開催され、「政府CIO制度の推進体制について」を以下のとおり決定した。

政府CIO制度の推進体制について (IT戦略本部決定)

1.内閣官房に置かれた政府情報化統括責任者(以下「政府CIO」という)を中心に、政府全体として、制度・業務プロセス改革の推進に資する電子行政の合理化・効率化・高度化の取組を迅速かつ強力に推進していくこととする。

2.政府CIOは、IT政策を担当する国務大臣及び行政改革担当大臣を助け、電子行政推進に関する基本方針(平成23年8月3日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定:以下「基本方針」)のうち、政府CIO制度の役割として掲げられた事項に基づいた職務(制度・業務プロセス改革の推進及び当該改革の推進に資するIT投資、政府全体のIT投資の管理、電子行政に関する戦略等の企画・立案・推進等)に関する企画及び立案並びに総合調整を行うこととする。

3.高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部及び行政改革実行本部の本部員は、政府CIOの職務遂行に最大限協力するものとする。

 まず、懸案だった政府CIOが設置されたことは大変喜ばしいことであり、これまでこの問題に取り組んでこられた多くの方々の努力に敬意を表したい。また遠藤CIOには、民間での業務改革の経験と知恵をフル活用した強力なリーダーシップの発揮をお願いしたい。

 しかし、喜んでばかりもいられない。政府CIOの設置が、ただちに国連の電子政府ランキング18位(2012年)にある日本の電子行政の変革を保証するものではないからだ。わが国は世界でトップグループに位置づけられる水準の電子行政国家の実現を目指しており(「基本方針」第3の2)、そのためには誕生した政府CIO体制を、有識者がこれまで議論を重ねて目指してきた水準へ近づけていく努力が不可欠だ。

 以下では、有識者による議論の集大成である「基本方針」、有識者会議での議論や「共通方針」と対比させて、現在の政府CIO体制が早急に解決すべき課題を見ていく。

政府CIOを閣僚級またはそれに準ずる者として位置付ける

 政府CIOに期待される最大の役割は、電子行政の取り組みを迅速かつ強力に推進していくために、府省横断的な統率力・調整力・実行力を発揮できる権能を備えた司令塔として機能すること、つまり縦割りの横串を刺すことである。

 この横串を刺せるよう、「基本方針」は「十分な権限と責任の下、電子行政推進の統率力・調整力を確保する観点から、閣僚級やそれに準ずる者等を政府CIOとする」(「基本方針」第5の3(1))とし、閣僚またはそれに準ずる位置づけを求めてきた。政府CIOを内閣法で位置付けるとすれば、「基本方針」にのっとって、どんなに低くても現在の内閣危機管理監以上に位置付けなければならない。

 古川IT担当大臣(当時)は、第4回有識者会議(6月25日開催)で「政府CIOの位置付けを明確にして、より実効性のあるものとするため、権限等について定める法案を、来年通常国会に提出するための検討を早急に開始したい」と発言された。また「共通方針」にも、「政府CIOの役割や付与すべき権限等について定めた法案の次期通常国会への提出を目指す必要がある」とうたわれている。内閣官房を中心に、政府CIOを閣僚級またはそれに準ずる者として位置付ける法律の準備を着実に進めていただきたい。

 また、政府CIOの権限の法律化と併せて、政府CIOをIT戦略本部の本部員、できれば副本部長とするIT基本法の改正も必要だろう。府省横断的なIT政策を推進するためには、政府CIOが実質的にIT戦略本部の議題設定と会議運営をリードできるポジションに位置しなければならないからだ。