今回の投稿は、エピファニー時代のエピソードです。起業家に必要な資質の一つは、困難に直面したときに解決策を見出すことですが、今回のオートデスクとの一件は、その能力をいかんなく発揮した例と言えます。(ITpro)

 時には、負けないことは、勝つことと同じくらい重要です。

顧客の認証

 当時エピファニーは、設立11カ月のスタートアップ企業で、従業員は31人、急成長を遂げていました。4個の案件に対して、10万ドルで顧客管理ソフトウエアを販売しました。

 セールスを担当する副社長のジョー・デヌーチ氏は、次の大型商談を賢明に探していました。彼は、友人であるオートデスクのCFO(最高財務責任者)に、私たちの商品のデモをし終えたところでした。デモを見た後、そのCFOはジョーをオートデスクのセールス担当副社長のところに連れて行き、「あなたが抱えている販売報告書の問題は、この製品が解決してくれるかもしれません」と彼女に伝えたのです。

 彼女はデモを見て、問題が解決されるだろうと賛同しました。

 ジョーは、興奮して会社に帰ってきました。もしオートデスクに製品が売れれば、取引額は50万ドルか、それ以上になるかもしれないからです。

オートデスクは問題を抱え、それを自覚していた

 当時のオートデスクのセールス部門は、IT部門に対してイライラが募っていました。理由は、財務や販売結果、顧客販売報告書をIT部門から得るのに何週間も何カ月もかかっていたからでした。オートデスクのセールス副社長は、“アーリヴァンジェリスト”(初期の熱烈な支持者)のプロフィールにぴったりでした。彼女は、自分たちには「販売予測に必要なデータが、必要な時期に手に入らない」という緊急の課題があると理解し、CIO(最高情報責任者)に対して毎週のように解決策を出すように催促するなど解決方法を探しており、「今すぐにも」という課題解決の目標期日を持ち、企業としてはそのための予算措置に合意していました。販売予測のミスを回避するためには、いくらでも支出するつもりでいたのです。

理想的な組み合わせ

 その後数週間、エピファニーのエンジニアリング部門全体が、オートデスクの販売運営チームと共に、オートデスクの実際のデータを使ってプロトタイプを作成しました。ジョーは説得力のあるROI(投資効率)プレゼンテーションを、セールス担当副社長とCFOに提案しました。エピファニーとオートデスクは、理想的な組み合わせのように見え、50万ドルの取り引きが数週間以内にも締結しそうでした。

 ところが、その通りにはならなかったのです。

 CFOは「IT部門がソフトウエアをインストールし保守維持するので、彼らが会社に対してエピファニー製品の購入を推薦し、契約しなければなりません」と非公式に伝えました。CIOはCFOの下に所属しており、ジョーはオートデスクのCIOを儀礼的に訪問することになりました。

 CIOは、プレゼンテーションに関してほとんど何も言いませんでした。これはその後に起こることの警報でした。そしてジョーをデータウエアハウス開発マネジャーのところに連れて行きました。ジョーが知らなかったことは、その数カ月前にIT部門はセールス部門の販売報告書問題を解決するように依頼され、SAPから必要なデータを取り出すという、複雑で困難な問題で四苦八苦していたことでした。

 ジョーは、オートデスクのセールス部門とIT部門との間のピリピリとした関係を知っていましたが、セールス担当副社長がエピファニーのプロトタイプの結果に満足していたことと、CFOとの個人的な信頼関係があったので、これが重要な障害だとは思いませんでした。ジョーは、エピファニーによる完璧な解決策に対して、IT部門は技術的かつ部分的な解決策しか提供できていなかったと考えていました。エピファニーの解決策が圧倒的に優勢だったので、エピファニー以外の解決策を論理的に推薦することなどないと、ジョーは考えたのです。

 しかし、それは間違いでした。