製品やサービスのイノベーション(革新)は、「技術」と「意味(製品を使う理由)」の両方の変化から生まれる。本書の主題「デザイン・ドリブン・イノベーション」は、とりわけ製品が持つ「意味」を急進的に変化させて、市場で優位に立つ経営手法である。

 注意したいのは、需要に応える「ユーザー中心型(またはマーケット・プル型)」のイノベーションと本書の手法は異なることだ。本手法では人々に製品の新しい使い方を提案するプッシュ型であり、これが受け入れられると長期的な競争優位を獲得できる。

 製品技術(または機能)の進歩が、新しい意味を生成する契機にもなる。本書は「技術」「意味」の二つの軸で、イノベーションを分類している。

 本手法が成功事例として挙げるのが、米アップルの携帯型音楽プレーヤー「iPod」や、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」、スイスの時計ブランド「swatch」などである。例えばiPodは、デジタル音声圧縮技術の発展から「個人が自ら聴く音楽をプロデュースする」という製品の新しい意味を作った。カセットプレーヤーなどを代替しようとした他社製品との違いだ。

 新しい意味を生み出すプロセスも解説している。鍵を握るのは、社外に多くいる「意味の解釈者(interpreter)」である。新しい価値感を打ち出そうと活動している芸術家や建築家、社会を洞察する研究者や教育家、社外のデザイナーや技術者らと、非公式に議論や研究を深める「デザイン・ディスコース」と呼ぶ人的ネットワークを作る。これをイノベーションを生み出す活動に組み入れるのだ。

 本手法は、デザイナーのほか技術者にとっても示唆に富む。技術者に求められるのは技術の改善ではなく、技術の進化がもたらす意味の変化である。例えば発想や議論を活発にする「フューチャーセンター」などの施設を活用してデザイン・ディスコースと対話し、成果を市場への提案としてまとめていく。こうしたイノベーション活動のヒントを得るには絶好の一冊だ。

評者 好川 哲人
神戸大学大学院工学研究科卒。技術士。同経営学研究科でMBAを取得。技術経営、プロジェクトマネジメントのコンサルティングを手掛ける。ブログ「ビジネス書の杜」主宰。
デザイン・ドリブン・イノベーション

デザイン・ドリブン・イノベーション
ロベルト・ベルガンティ著
立命館大学 経営学部 DML訳
岩谷 昌樹/八重樫 文 監訳・訳
佐藤 典司監訳
同友館発行
3150円(税込)