これからのUI/UXを識者に聞く特集の第4回は、現場に近いところでUI/UXにたずさわる2人の識者に聞いた。一人はゲームデザインやメディアアートを専門とし、iOSアプリ黎明期の2009年にiTunes有料年間ベストアプリとなった「Matrix Music Pad」の開発者でもあるGMOインターネット 社長付き 特命担当の世永玲生氏。

 もう一人は電通で様々な実験的な試みを通して新たなデバイスにおける表現の追求にかかわってきた同社コミュニケーション・デザイン・センター 次世代コミュニケーション開発部 プランニング・ディレクター(取材時)の水川毅氏。両氏に具体的な事例やUIの実装例などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


GMOインターネット 社長付き 特命担当 世永玲生氏

GMOインターネット 社長付き 特命担当の世永玲生氏
GMOインターネット 社長付き 特命担当の世永玲生氏

 「UXデザイン」と言った時、メディアアート的な部分も含めてユーザー自身が見たこともないようなことを経験させるという方向もあるが、どうやってユーザーに気づいてもらい、学んでもらうか、ということもデザインの一部。ユーザーが経験するものを見せる順番だったり、タイミングだったりをデザインする。こうしたことも重要だと思っている。

 「Matrix Music Pad」(編集部注:世永氏が開発したアプリ。2009年のiTunes有料年間ベストアプリ)は、メディアアート的要素とユーザーにどう気づいてもらうかといった要素の両方をテーマにした。「UIの学習深度」という言葉で説明しているが、ユーザーが実際に触れる機能を段階的に気づいてもらえるように仕組んでいる。最初にユーザーが触ることができる部分をあえて限定させ、学びながら他の機能に気づいてもらう、といったことをしている。また、当時触るだけで音楽をリミックスできるということは、ユーザーにとって新しい経験でもあった。

 テクノロジーが進歩して、いつも傍らにいる存在、中に入っていることを気にしないで使える存在になると、UXもそれをベースにして進化する。例えば「Eye-Fi」(無線LAN機能内蔵SDカード)を挿したデジタルカメラなどそうだと思うが、テクノロジーが中に入って見えなくなることで、写真を撮ってクラウドに転送するという行為自体を人間が考えずにできるようになる。この段階になると今度はさらにそれをベースにして新しいユーザー体験が生まれてくる。

 ゲーミフィケーションはそのための一つの手法となり得る。例えば、うまく取り込んでいるサイトとしてPCのゲーム購入サイト「STEAM」が挙げられる。このサイトは無料の会員制サイトでソーシャルネットワークの要素もあるが、ゲームを買っているだけで楽しいし、ログインしているだけで楽しいという体験を作り出している。

 それゆえSTEAMは「ゲームを買うゲーム」と言われている。STEAMはさまざまなセールによって買ってもらうシカケを提供しているが、その中で僕が最も興味深いと思っているのが、「次に値引いてほしいゲームをみんなで投票」というセール。一定時間後に結果が分かり、「何パーセントの人がこのゲームに投票しました、だからこれを値引きます」ということをしている。「これだけの人が投票しているから買おうかな」となるし、自分が投票したゲームに票が集まらなかったら悔しいが、別のキャンペーンで安くなるように仕組まれている。そうするとやりもしないのについ買ってしまう。それも「買わされた」という感じがしない。

 ゲームに関して言うと、日本のコンシューマゲームは非常にレベルの高いユーザー体験を提供するために、細部に渡って工夫されている。例えば日本のある格闘ゲームでは殴った瞬間そこで一瞬止まるという動作を敢えて入れている。リアルの世界ではあり得ない動きだが、その方がゲームではリアルに見える。また、殴っている瞬間、実はこぶしのサイズを1.2倍にしていたりする。そんなことは現実にはあり得ない。「ユーザーに何を気づかせるか」の設計については日本のコンシューマゲームは本当によく出来ている。(談)