1996年前後に生まれた中学・高校生。PCはもちろんスマートフォンを身近に感じ、当たり前のようにITを使いこなす「スマホ世代」こそ、10年後に企業のIT活用を背負って立つ“宝”だ。彼ら・彼女らの可能性の芽を摘むことなく、いかに戦力となるIT人材として育成するか。喫緊の課題に向けた取り組みが始まっている。まずは大人顔負けの活躍ぶりを見せるスマホ世代の若者を紹介しよう。

部活の枠を超えセキュリティの腕磨く
矢倉 大夢(15)

 16時ごろに授業が終わると、部室に直行。18時までプログラムを書き続ける──。灘高等学校に通う1年生、矢倉大夢の毎日だ。

 パソコン研究部の部長を務める矢倉のプログラミング技術は社会人顔負け。合格率10%台の情報セキュリティスペシャリストを取得したのは中学3年生だった2011年。最年少記録を達成した。ほかにも続々と記録を塗り替える。

 矢倉がプログラミングに本格的に取り組み始めたのは、灘中学校に入学した2009年。パソコン研究部に入り、すぐにのめり込んだ。

 中1の時にサーバー管理を担当した。中国やインドからDDoS攻撃を受け、「セキュリティの大切さを実感し始めた」。

(写真:富田 昌彦)

 そこで腕を磨くために、2010年にIPA(情報処理推進機構)が主催する「セキュリティアンドプログラミングキャンプ」に参加した。プログラミングコースLinuxカーネル組で、5日間みっちりとLinuxの構造を学んだ。

最年少でプロジェクト採択

 「おかしいなぁ」。キャンプ参加中、矢倉は設定をあれこれといじっている最中に、Linuxカーネルのバグを発見した。すぐに修復用のパッチプログラムを作って、Linuxの開発者向けメーリングリストに英語で投稿。「たぶん最年少」で承認された。

 矢倉が今取り組んでいるのは「オンラインジャッジシステム」の開発。25歳未満による最先端技術を使った開発を支援する、IPAの「未踏プロジェクト」に採択された。これも最年少記録だ。120万円の開発費も付いた。

 オンラインジャッジシステムは、プログラミング競技の判定を支援するものだ。競技では、時間とメモリーを制限した環境で、問題を正しく解決するプログラムをいかに早く、美しく書けるかを競う。同システムは問題の出題から、アップロードされたプログラムの評価までを支援する。「既存のシステムは、限られた人しか問題を追加できなかった。誰でも問題を作れるようにして、競技者人口を増やしたい」と矢倉は話す。

 未踏プロジェクトのプロジェクトマネジメントを担当する慶応義塾大学環境情報学部教授の増井俊之は、「発表の受け答えが適切で、大学生や大学院生と比べても遜色ない」と矢倉を評する。

 目標とする人物を尋ねると、挙げたのはLinuxの作成者であるリーナス・トーバルズ。「みんなが楽しくなるようなものを作っていたい」。今後については、「みんなが意識せずに、セキュリティを守れる仕組みを作りたい。今後もITを集中して学べる環境にいたい」と話す。