ビジネスは国際化の一途をたどり、グローバリゼーションという言葉抜きで経済活動や産業活動を考えられなくなった。IBMは2年に1度、当社のコンサルタントが世界各国のCEOに面談し、意識を調査している。

日本はグローバル化に関心、欧米はテクノロジー重視に

日本IBM 常務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング・サービス 兼 ビジネス・アナリティクス&於プティマイぜー所ん担当 鴨居 達哉 氏
日本IBM
常務執行役員
グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング・サービス 兼 ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション担当
鴨居 達哉 氏

 最新の2012年の調査では、経営に影響を与える外部要因について日米と欧米のCEOの間で違いが表れた。欧米で最も多かったのはテクノロジーで、次は人材の変化。日本では1位が市場の変化、2位はグローバル化だった。グローバル化は欧米では上位5位に入っていないが、今でも日本のCEOにとって大きな関心事だ。

 グローバル化と一口に言っても、企業モデルは大きく3つに分けられる。1つ目は本社が立てた戦略を海外で忠実に実行する国際企業(International)。本社にすべての機能を集約し、海外子会社は製造・販売など事業の一部を担当する。2つ目は、それぞれの地域市場への適応を重視した多国籍企業(Multinational)。地域会社の集合体で、それぞれに権限を委譲している。3つ目は、事業に必要な機能を最適な地域に置き、経営資源を最適化するグローバル統合企業(Globally Integrated)だ。地域市場ごとに適合し、経営資源の統合による効率性とイノベーションを追求する。

 IBMは、3つ目のグローバル統合企業モデルの実現に早くから着手してきた。コーポレートカラーが青であることから、グローバル統合プロジェクト「ブルーハーモニー」と名付け、世界でシステム、ガバナンス、コンプライアンスなどの標準化・統合化を進め、利益の適正化を目指す変革に取り組んだ。具体的には、グローバルな財務・会計や調達の共通化、各地域で蓄積した知識の共有化、インフラの簡素化と統合化などを実現した。

●IBMグローバル統合プロジェクト
●IBMグローバル統合プロジェクト
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 企業も出るの変革にテクノロジーは大きな役割を果たす。とりわけインパクトを与える可能性を秘めるのがコグニティブ(認知)型コンピュータだ。コンピュータが認知・学習しながら膨大な情報と洞察に基づいて答えを生み出し、人間の頭脳に匹敵する能力を備える。IBMは「ワトソン」と名付けた製品を開発。米国のクイズ番組でお披露目され、クイズ王とも対戦し勝利を収め、マスメディアでも伝えられた。

 保険金の支払い業務も認知型コンピュータを活用した一例だ。医療保険申請書の内容のチェックを人手から認知型コンピュータに置き換え、診療情報や医師のナレッジなど膨大なデータの中から正しい診療内容を認知して保険金の支払いに活用するなど、将来に向けたトライアルが始まっている。

 今後、膨大なデータの活用の良し悪しが経営を左右するだろう。先の調査によると、グローバル企業の業績とCEOのデータ活用には相関関係がある。業績が良い企業では、CEOが有用なデータにアクセスでき、それをもとに有意義な洞察をし、行動に結びつけている。しかし、日本企業のそれは業績が芳しくない企業とほぼ同レベルだ。

バックからフロントへ、IT投資の軸足も移動

 その要因の1つとして、数理最適化などの先進的な分析手法の活用の遅れがある。それを活用する日本企業は6%と世界のグローバル企業の半分に満たない。反面、データの品質に課題を抱えると回答したCEOは日本では44%に上り、グローバル企業の2倍以上の比率だ。裏返せば、日本企業はデータ活用の能力を高めれば、企業の成長、業績の向上が期待できる。

 欧米企業に遅れているとはいえ、最近、日本でもビッグデータの活用が急速に広がりつつある。データ品質の向上に欠かせない情報統合基盤を整備し、財務管理、リスク管理、サプライチェーン管理、販売・マーケティングなどで活用し、予測・最適化、分析、可視化などで効果を発揮し始めた。

 それに伴って、IT投資にも変化がみられる。これまでのバックオフィスからフロントオフィスにIT投資の軸足が移り始めている。新しいビジネスチャンスを見つけにくい中で、顧客を熟知するのに不可欠なフロントオフィスに投資を拡大する動きは加速するに違いない。

 ビッグデータ活用は企業だけにとどまらない。実証段階に入った北九州スマートコミュニティ創造事業はその1つ。発電機や蓄電池などから送られる膨大なデータを活用し、都市のスマート化を目指す。

 ビッグデータは企業や行政の枠を超えて様々な場面で使われていく。IBMのテクノロジーはそのお役に立てると考えている。